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好きと好きのあいだ2
翌日はジヌ先生のレッスン日だった。先生は俺の顔を見ると、おめでとうと言ってきた。なにがおめでとうなんだろうかとわからなくて首をかしげると、「オーダーだよ」と言われてわかった。そっか。昨日、先生が来た時に韓国語でオーダー受けたからだ。
「もう韓国語で注文受けられるようになったね。すごいよ。これからは自信持ってね」
「ありがとうございます」
韓国語でオーダーを受けられるようになったのは先生とイジュンのおかげだった。レッスンのある日はロールプレイングでオーダーシーンを何度も繰り返しやったし、それ以外のときはイジュンに教わった。お店のメニューの韓国語、そしてどんなクレープなのかの説明。それを散々やった。たまに”苺”の発音みたいにうまく発音できないものがあったりして、正直泣きそうになった。永遠に言えないんじゃないかとまで思った。でも、先生やイジュンが根気よく教えてくれているのに、俺が折れたら申し訳ない。そう思って家に帰っても発音の練習を嫌というほどやった。そして、そんなことを繰り返していたら、イジュンがオーダーを取っているときの韓国語がスムーズに理解できていることに気づいた。そのとき、もしかしたらもう韓国語でオーダーを受けられるのかもしれないと思って、ミンジョンヌナが来たときにイジュンに横にいて貰って韓国語でオーダーを受けてみた。ヌナならもし韓国語でダメなら英語に切り替えることができるからだ。そうしたらヌナは俺がきちんと韓国語で対応できていることにおめでとうと言ってくれて、イジュンとはハイタッチをした。それから、オーダーを取るのはイジュンがメインではあるけれど、交代でお昼休憩を取れるようになった。交代で1時間休憩。今まで5分や10分でご飯を食べていたから、それからみたらゆっくりと食べられるようになった。とはいえ、いつわからなくなるかもしれないから、イジュンにはバックヤードで休憩を取って貰ってる。自由に休憩を取らせてあげられなくて申し訳ないけど、それでもイジュンはゆっくり休めてるよと微笑んでくれる。だから俺は韓国語でオーダーを取れる。
「"春の香り"ってネーミングをつけたのは彼だって言ってたね」
「名前もですけど、苺ずくしにするのもイジュンが考えたんです」
「そうか。アスミが嬉しそうに話していたのが印象的だったんだ」
「そんなに嬉しそうな顔してましたか?」
「うん。自慢気にね」
「恥ずかしい……。イジュンには内緒にしてくださいね」
「うん。……イジュンさんのことが好きなんだね」
先生が穏やかな表情をして言っている。え? 俺がイジュンのことを好きなことがバレてる? なんで? 俺、そんなにわかりやすいだろうか。そう思って慌ててしまう。
「大丈夫だよ。よっぽど観察してないとわからないと思うよ」
「良かった……」
「いい恋してるね。……ちょっと羨ましい」
いい恋……。なのかな? お店をやっていくのは正直結構疲れる。それでも、イジュンといつも一緒にいられるのは幸せだとは思ってる。好きな人といつも一緒にいられるのって幸せとしか言えないから。それでも、今まで経験はしていないけれど、もし喧嘩をしてしまったら気まずいだろうなとは思ってる。だってどんなに気まずくても、会いたくないと思ってもお店のある日は顔をあわせなくてはいけないんだから。だけど、幸せなことに今まで喧嘩になることはなかった。これからも喧嘩なんてしたくないなと思う。
「イジュンさんのこと、大切にしてね」
俺が考えているときに先生は切ない笑顔を浮かべた。それは見ているこちらの方も辛くなる笑顔だった。先生は切なくなるような恋をしているんだろうか? だとしたら、その切ない恋が実るように応援したい。俺はそう言った。けれど先生は切ない笑顔を返してくるだけだった。
「僕はいいんだよ。ただ、アスミは幸せでいて」
「……はい」
先生の切ない表情を見ていると、なんだか申し訳ない気がする。いや、俺の恋と先生の恋とは関係ないのに。それでも、身近な人が切ない恋をしているのは悲しい。先生が笑顔になれるのを心の中で応援していよう。口に出すと辛そうだから。
「まぁ。僕のことはいいんだよ。相手を見ているだけでも幸せだからね。ところで今までロールプレイングでオーダーをとるシーンをやってきたけど、それ以外で韓国語で言いたいこととかある? あるなら、それをやっていこうと思うんだけど」
韓国語で言いたいこと。そう聞いて真っ先に頭に浮かんだのはイジュンだ。イジュンに自分の気持ちを韓国語で伝えたい。でも、そんなことを授業でなんておかしい。なので俺は特にないと答えた。実際、それ以外は特にないから。
「じゃあ普通のレッスンをすることにしよう。でも、もしなにかあったら言ってね」
「はい。ありがとうございます」
「よし、そろそろ帰ろうか。もう22時近い」
「あ、ほんとだ。先生、今日もありがとうございました」
「お疲れ様。途中まで一緒に帰ろう」
そう言って先生と俺はカフェを出た。
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