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好きと好きのあいだ3

「アンニョーン」  土曜日の夕方、ソヨンが来た。初めの頃は心配なのかちょくちょく来てくれていたけど、最近は顔を出すことは減っていた。だから今日も少し久しぶりだ。もっとも家の方には顔を出しているのかわからないけど。 「久しぶりだな」 「家に行ってもオッパいないから」  やっぱり家には行っているのか。俺が帰るのが遅いからすれ違っていたのか。 「仕方ないだろ。仕事があるんだから。なんなら今だって仕事中だ」 「え〜。でも今はお客さんいないじゃない」  今は少しお客さんが途切れてる。なので、俺と明日海はのんびりと話していた。夏休みはどうするかっていう話し。ここは完全は学生街だから夏の時期はお客さんは少ないだろう。それなら少し夏休みを取ってもいいかもしれないということを話していた。明日海が数日でも日本に帰れるような休みを。明日海が日本に一時帰国をするなら、俺もついていって、東京でクレープ屋に行ってみようかなと思って、そんなことを話していた。 「で、今日はなんの用事だ?」 「用っていうか、最近hanairo順調そうだなと思って。SNSでも結構見かけるようになってきた」 「ありがたいことにな。ソヨンのおかげだよ」 「うちの大学ここから遠いから、どうかな? と思ったけど、SNSってすごいね。私もびっくりしちゃった」  ソヨンの大学、大学の子が取材に来てからSNSでhanairoを見かけるようになった。そして、それがどんどん拡散されていって、SNSで見たというお客さんがポツポツ見えるようになっていた。それはこの梨大、延世、弘大というこのエリアだけでなく、そしてソヨンの大学の子はもちろんだけど他の大学の子、そして大学生に限らずOLさんもわざわざきてくれている。明日海は日本の韓国旅行ポータルサイトで取り扱ってくれれば日本人旅行客も来るのにと言っている。でも、そういったところで扱って貰うにはもっと人気にならないとダメなのかもしれないとも話していた。確かに最近は客層も幅広くはなってきたけれど、もっと増えれば取り扱ってくれるだろうという期待をしている。 「でも、ほんとhanairoすごいよ」 「明日海が頑張ってくれてるから」 「オッパだって頑張ってるじゃん」  その言葉を聞いて、ソヨンが明日海のことをライバルかのように思っているのはほんとなんだなと思った。ソヨンの気持ちは嬉しいし、hanairoのことで色々と力になってくれたのも感謝している。それに嘘はない。だけど、俺だけが頑張っているわけじゃない。むしろ明日海の方が頑張ってる。クレープを焼くのは未だに明日海の方が上手いし、当初はオーダーを取るのはできないからと俺だけがオーダーを受けてたけど、明日海も韓国語を頑張ってくれて今では明日海もオーダーを取れるようになってきた。つまり、俺よりも明日海の方が頑張っているんだ。それをソヨンに言ってもきっと変わらないだろうけれど。 「それでも明日海は俺よりも頑張っているんだよ」  俺がそう言うとソヨンは頬を膨らませた。その表情は子供の頃よく見たもので、俺は小さく笑ってしまった。 「オッパ! なに笑ってるのよ」 「いや、子供の頃と同じ表情するなと思って」 「なによ、それ。もう子供じゃないんだからね!」 「わかったわかった」 「もうっ! でも! 私が言いたいのはオッパが頑張ってるって言いたいの。オッパだって頑張ってるのに」 「ありがとな。でも、明日海が頑張ってるのも認めてくれ」 「まぁ、頑張ってくれなきゃ困るわよ。それよりさ……」  そこまで言うとソヨンは小さな声で続ける。まるで俺にしか聞こえないようにするかのように。 「彼、優しいけど、危なっかしいでしょ」  危なっかしい? 明日海が? どういう意味だろうと考えるけど、意味がわからない。 「どういう意味だ?」 「んー。なんでもない。ただ、ああいうタイプ、誰かにすぐ好かれるんじゃないかなと思って」  明日海だ誰かにすぐ好かれる? そう聞いて俺が真っ先に思い浮かべたのは、あの韓国語教師だ。たまにお店に寄っては話していく。もちろん、俺とではなく明日海と。とは言ってもソヨンみたいにひそひそ話ではないから、2人がなんの話しをしているのかは俺はわかっている。それでも、あの教師が明日海を見る目はまるで眩しいものでも見るような目だ。つまり、明日海のことが好きなんじゃないかと思う視線だ。でも、それは明日海に責任はない。明日海は明日海でいるだけだ。 「さー。じゃあ私帰るね。お邪魔しました」  そう言ってソヨンは帰っていく。言いたいことだけを言って。こっちはソヨンの言った言葉が胸につっかえてるというのに。明日海を好きな人か。今はあの教師だけだけど、今後もきっと現れるだろう。もしかしたら俺も明日海も知らないところで。そう思うとなんだか心に重りがついたように感じた。

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