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好きと好きのあいだ4
ソヨンが帰って、夕食の時間帯になってくるとお客さんは減る。あと1時間で21時。お店を閉める時間だ。
最近は明日海がオーダーを受けられるようになったからお昼の休憩は1時間取れるようになったし、それとは別に15分休憩まで取れるようになった。オープンした頃は明日海が韓国語がわからないので休憩時間はなしで、オープンからクローズまでずっと通しだった。正直、結構きつかった。それでも明日海は韓国に来て間もなかったし、日本で韓国語教師についたというけど、時間が短かったから簡単な挨拶とハングルの読み書きといったレベルだったから仕方ないと思っていた。海外で仕事をするのって仕事内容もだけど、言語の壁っていうのもあると思う。だけど明日海は韓国に来てから一生懸命韓国語の勉強をした。来て間もない頃は俺が教えたし、発音が難しいというので、発音をしてみたりした。そうして少しずつ積み重ねた上に、少し仕事に慣れた頃に語学カフェに行って韓国語教師をお願いするようになった。韓国へ来て約4ヶ月。たったそれだけの期間で韓国語でオーダーを取れるようになった。もちろん込入ったことは無理だから、そういうときは休憩してても俺が対応するようにしている。でも、大体は簡単なオーダーだから俺が呼ばれることはほぼないけど、それにしたってかなりの努力だ。ソヨンは俺が頑張っていると言ってくれた。そう言ってくれると嬉しい。俺だって全く頑張ってないわけじゃない。だけど、それは社会人として当たり前のことだ。だけど、明日海はそれプラス言語というのがあるから、ソヨンは認めなかったけど、俺より明日海の方が頑張っているんだ。それをソヨンにわかってくれというのは無理なんだろうか。それとも、そんなことはもうわかっているんだろうか。わかっていても認めたくないということだろうか。多分、そういうことなんだろう。これは仕方ないのかもしれない。
「疲れたね」
俺がそう声をかけると明日海が弾かれたように俺を見た。なんだ? そんなにびっくりさせてしまったか? なにか考えていたんだろうか。
「ごめん。なんか考えてた?」
「え……いや、なにも」
「なんか考えてたでしょ。俺のこと?」
「なに馬鹿なこといってるんだよ」
「えー。俺のこと考えるのって馬鹿なことなの? ひどーい」
「なにふざけてるんだよ。仕事中だぞ」
「うん。でも、お客さんいないし」
「……」
明日海がびっくりしたから、わざとふざけて言ってみたけど、なんだか元気がない? いや、俺がふざけて明日海が怒るっていうのはいつものことだけど、それでもちょっと元気がなく感じた。というか明らかになにか考えてたよな。しかもかなり深く。俺が声かけても気づかないくらいに。でも、それを指摘したところで明日海は否定するだろうし、なににもならないから黙っておく。
「疲れたけど、明日休みだなって言いたかったの」
「ああ、そうだな」
「疲れてぼーっとしてたの?」
「え? ああそんな感じ」
そう言って薄い笑みを浮かべるけれど、ちょっと違うと思う。疲れてるのは疲れてるだろうけど、ぼーっとしてたのはそれが原因じゃないと思う。恐らく、さっきソヨンが言ったことが聞こえていたんじゃないかと思った。ソヨンはほんの少し声のトーンを落としたけれど、この狭い店の中では聞こえたっておかしくないくらいの音だった。だから、きっと明日海にも聞こえていたと思う。それでぼーっとしてた? いや、ぼーっとしてたんじゃない。そんなのじゃない。あんなこと言われたら気分も悪いだろう。だって誰かに好かれるのなんて明日海のせいじゃないし。
「なんかソヨンがごめん」
「なんでイジュンが謝るんだよ。ソヨンさんの言ったことはまるまるイジュンが言いたいことなのか?」
「違う! そんなことない!」
「なら、イジュンが謝る必要はない」
「でも、ソヨンは従兄弟だから」
「だからって別の人格なんだからイジュンが謝る必要はない」
なんだか元気がない気がして言ってみたけれど、逆に怒らせてしまったみたいだ。確かにソヨンの言ったことは俺が考えていることとは違うけど、ソヨンは俺側に立ってしか言っていないから、明日海にとってはいい気がしないと思ったんだけど。でも、こんなことで怒る明日海は珍しい。容姿をちゃかしたら怒るのはいつもあることだけど、それ以外のことで怒るのは珍しい。明日海は怒る前に落ち込んでしまうから。やっぱりソヨンの言ってたこと、聞こえてるよな。以前だったら韓国語がさほどわからなかったから、韓国語で話せば聞こえていてもなにを言っているのかわからなかっただろうけど今は違う。わからないこともあるかもしれないけれど、なにを言っているか大体のことはわかるだろう。だからソヨンのあれはまずかった。でも、落ち込んだりしたら俺に話して欲しかった。って、俺に関することだから俺には言えないか。でも、これだけは言いたい。
「頑張り屋な明日海はすごいと思ってるよ」
ソヨンは認めなかったことだけど、俺はそう思ってるからそう言った。それで少しでも元気になって欲しくて。
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