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花の雨2
「俺、漢字も少しはわかるし、大丈夫だろうと思ったんだよ。でも甘かった。大体、ひとつの漢字に音読み・訓読みなんてあって送り仮名までつく。ひらがなとカタカナだって覚える文字は倍あるし、どういうときにひらがななのかカタカナなのかがよくわからないし、大体、漢字の量も多いし、それだけで頭おかしくなりそうだよ」
「そうなのか?」
「そうだよ。世界で難しい言語の第3位だからね。まぁ4位は韓国語なんだけどね」
「まじか。俺、そんなに難しい言語勉強してるのか」
「ちょっとちょっと明日海。俺だってそうなんだからね」
「大丈夫だよ。延世出れるだけの勉強に関しては頭いいんだから」
「なんか俺、いじめられてるみたい」
「なに言ってるんだよ。愛情だろ」
「そんな愛情はイヤだ」
「贅沢言うな」
俺がそう言うとイジュンは、また唇を尖らせた。よっぽど不服らしい。
「まぁ、それは冗談として、文字は難しいかもしれないけど、イジュンなら覚えられると思うよ」
「明日海〜。うん、頑張る!」
俺の一言でやる気が出たらしいイジュンがなんだか可愛く思えてきた。こういうところがあるから、好きになるんだろうな。真面目はときは格好いいのに、そうでないときは可愛いところもあるから。そのギャップかな。
「でもさ、俺達、お互いに難しい言語勉強してるんだね」
「だな。韓国語はさ、文法も字もさほど難しくないんだよ。でも、発音が難しい。だいぶできるようにはなったけど、聞き取るのはまだ難しいし、完璧には発音できない」
「あー。明日海はずっと発音が難しいって言ってるよね」
「うん。難しい。なんで韓国人はわかるんだろう」
「まぁ、その言語を聞いて育ってるからね」
「確かにな。日本語は発音の難しさはないだろ?」
「いや、あるんだよ。発音の微妙なニュアンスが。例えば、端と橋と箸ってみんな違うでしょ。そういうのが難しい」
「あー。そういうのも確かにあるね」
「字が難しい上にそういう発音があって、それに!尊敬語と丁寧語、謙譲語が難しい」
「あー。尊敬語とかは日本人でも難しいから間違えたりする」
「そんな……」
日本人でも間違えると言ったらイジュンは顔色を青くした。脅すわけじゃないけど、ほんとのことだから仕方ない。そう考えたら確かに日本語は難しいのかもしれない。でも、ほんとにイジュンなら大丈夫だと思うんだ。漢字がある程度読めるってかなりいいスタート地点に立ってると思うんだよな。もちろん、韓国で使われる文字は昔の繁体字ではあるけれど、なんとかわかるんじゃないかと思っている。
「でも、明日海と出会ったからやろうと思えたことだよね。勉強は難しいけど楽しいし」
勉強を楽しいと言ったイジュンを俺はまじまじと見てしまった。勉強が楽しい? 自慢じゃないが、俺は勉強を楽しいと思ったことはない。韓国語だって必要だからやっているだけで、楽しいと思ってやってるわけではないし、楽しいと思ったこともない。もしかしたら頭のいい人ってそういう違いがあるんだろうか。
「なに? なんか変なこと言った?」
「勉強が楽しいって言った」
「うん。楽しいでしょ」
当然のことをなに言ってるんだという顔をして俺を見るけど、俺にはその発想がない。
「いや。イジュンと俺の違いがわかっただけだよ」
「なんかよくわからないけど……。そうだ。あのプリクラどうした?」
「ああ、あれか。財布に入ってる。貼るのは恥ずかしいし、どこに貼ったらいいかわからないし」
プリクラなんて懐かしいな。あのときラジオ会館を出ようとしたときにイジュンが撮りたいって言ったんだよな。男2人で恥ずかしいと思ったけど、何気にいい思い出になってる。
「いいじゃん。貼ってよ。ってそういう俺も財布に入ってるけど。あのときさ、明日海の写真が欲しくてプリクラ撮ろうって言ったんだよね」
「なんだ、それ」
「だって、両想いだなんて思わなかったし」
イジュンがプリクラを撮りたいと言った理由が俺の写真が欲しかったから、だなんて知らなかった。でも確かに両想いだなんて思わなかっただろうな。俺だって男だし。イジュンがゲイなのかどうか知らないけど、俺はこんな顔をしているけど、今まで好きになったのは女の子で、男を好きになったのなんてイジュンが初めてだ。そう考えると、今、こうして2人で互いに想いあっているなんて奇跡っぽいし、確かに運命を感じてもおかしくない。俺はイジュンのナンパに乗ったことすらあり得ないと思うんだから、ほんとに運命だったのかもしれない。少し恥ずかしいけど。
「まだ1年も経ってないけど、懐かしいね」
そう言って懐かしそうな顔をするイジュンを見て、俺も懐かしさを感じた。
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