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花の雨3

「1年前はこうなるって思わなかったよ。起業したいとは思ってたけど、1人じゃ不安もあったし。だから日本に行ってから就職活動しようと思って日本に行ったんだよね。そしたらそこで明日海と出会った。しかも大学での専攻が俺と同じ。そんな人を好きになって。ほんとに運命としかいいようがないじゃん」  運命って言い方が女子みたいって思うけど、確かに韓国で就職活動するつもりが日本に旅行したがために起業することになったって確かに運命としか言えないかもしれない。俺も1年前はまさか韓国で仕事するようになるとは思わなかった。そしてそのために韓国語勉強することになって、少しわかるようになってきてるとか。 「運命かどうかはわからないけど、考えもしなかったことだということは確かだよ」 「明日海は公認会計士だかになりたいって言ってたしね」 「そうだよ。まさかクレープを焼くようになるとは思わなかったよ」 「でも明日海には数字も読んで貰ってるけどね」 「それ言うならイジュンだって一緒だろ」  クレープ焼いてるだけなら専攻と全く関係ないし、それなら簿記の方がいいと思うけど、数字を読むということを考えると専攻をいかしてると思う。だいたいイジュンが俺を誘ってきたのは、数字を読んで欲しいということだったから。 「だけど、それで韓国に来るようになって韓国語まで勉強する羽目になったのは確かに想定外だった」 「そうだよね。俺が韓国で起業するよりも明日海の方が思いもしなかったことだよね。ありがとう」 「まぁでも、なかなか味わえない経験してると思うよ」 「退屈する時間ないでしょ? 仕事して韓国語勉強して」 「だな。時間が足りないくらいだよ」 「韓国語と言えば、随分韓国語力伸びたよね」 「まあね。韓国で暮らしてるし、韓国語のマンツーマンのレッスン受けてるし」  環境が韓国語しか使わない環境だから、韓国語力が伸びない方がおかしいと思ってる。朝起きてから夜寝るまでずっと周りで韓国語を聞いているんだ。テレビをみようとしたって韓国語で字幕なんてない。日本で韓国語の勉強をしているのとでは全然違う。 「あの先生、教え方うまい?」 「んー。うまいと思うよ。俺が店をやってるのを知ってるから、注文での韓国語や店で使いそうな言葉をロールプレイングで教えて貰ってるから必要な言葉から覚えていくし、楽しい」  俺がそう言うと、イジュンはまた唇を尖らせる。なにが不満なんだ? 俺が韓国語力が伸びたことが面白くないのか?  「なんか……ちょっと楽しそうで妬ける。今日もレッスン?」 「なんで妬くんだよ。韓国語に妬くっておかしいだろ」 「韓国語に妬いてるんじゃないよ。あの韓国語教師に妬いてるの」 「それだっておかしいだろ。先生といる時間よりイジュンといる時間の方が長いし、関係だって、その……」  深いだろう、と続けようとして恥ずかしくて続けられなかった。でも、それでも言いたいことは伝わったらしくて、尖っていた唇は元に戻っている。 「そうだよね。イジュンくんのことは好きだもんね」  と、茶化してくるイジュンに、俺はむっとした。 「イジュンの馬鹿!」 「いいじゃんよ〜。でもさ、真面目な話し、レッスンについていきたいって思うことはあるんだよ」  なんでイジュンが? 俺に韓国語を教えるために? それともほんとに先生にやきもち焼いて? もし後者だとしたら、ほんとに馬鹿としかいいようがない。先生にやきもち焼いてどうするんだ。それこそ、ほんとにイジュンのことは好きなのに。そうでなかったら韓国に来てないのに。 「それはなんで?」 「レッスンの仕方をみたい。あの先生のレッスンのない日に明日海に教えたりするでしょ、そのときにどう教えたらいいのかなって思うから。トウミやってたのとは違うからさ」  俺に韓国語を教えるためにか。確かにレッスンのない日はイジュンに教わっている。でも、イジュンに教わるのは先生と違うことでいいんだ。 「イジュンにはさ、レッスンでわからなかったところを教えて貰って、発音に付き合って貰えればいいんだ。そのうち先生のレッスンを卒業したら話しは違うと思うけど」 「発音か」 「そう。文法とかはさ、なんとかなるんだ。ちょっとは間違えるけど。でも、発音が違うと話してて違うくなるだろ」 「あー。コーヒーと鼻血とか?」 「そうそう」  韓国語でコーヒーはコピ。鼻血もコピ。字で見ると一緒だけど発音が違う。だからカフェでコーヒーくださいって言っているはずが鼻血くださいって聞こえるということはあるらしい。そんな音がいくつもある。 「確かにそうだね。それこそミンジョンヌナの名前のミンジョンって発音が違うと男性の名前のミンジョンになるんだ」 「え? そうなの?」 「うん。イウンとニウンの違い。でも日本語にしたら一緒なんじゃない? ンの発音ってひとつしかないよね?」 「うん。ひとつしかない。じゃあ、俺、きちんとヌナの名前発音出来てる?」 「出来てるよ。大丈夫」  良かった。韓国語はほんと難しい。でも、そう考えて、やっぱり発音の練習はしないとダメだなと思った。 「やっぱりイジュンには発音教えて欲しい。違いを聞き取れないこと多いんだ」  俺がそうお願いするとイジュンは嬉しそうに笑った。

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