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花の雨4
今日は韓国語のレッスンの日だ。お店でのロールプレイングをするようになってから、ちょっと怖くはあるけれど、韓国語でオーダーを取れるようになったことは先生とイジュンのおかげだ。俺が韓国語でオーダーを受けるようになったことは先生は知っている。
「ほんとに頑張ったからね。その頑張りが実を結んだんだよ」
確かに頑張った。ロールプレイングのレッスンはもちろん、実際にイジュンがオーダーを取っているのを聞いていたり、自分なりに頑張った。ただ、それでもひとつダメなことがある。”苺”の発音だ。韓国語で苺はタルギ。だけどこの場合のルの発音が難しくてb日本語風になったり英語風になったりしてしまう。それでも少し韓国語っぽい発音もできるようにはなったけど、まだまだ苦手だ。
「でも、まだタルギがきちんと言えません」
「日本人にとって韓国語の発音は難しいからね」
「はい」
「もう少しロールプレイングやってみようか」
「はい」
ロールプレイングで文中で使うようになると、単語だけで発音するよりも言いやすかったり、きちんと言えたりする。だからロールプレイングはいいと思うんだ。
「じゃあ行くよ。저기요, 추천 메뉴가 뭐예요(おすすめのメニューはなんですか)?」
「봄의 향기가 인기예요(春の香りが人気です).」
「그건 어떤 크레페예요(それはどんなクレープですか)?」
「딸기 크림에 딸기 토핑하고, 스트로베리 아이스 올리고, 초코 소스 뿌린 거예요(苺クリームに苺をトッピングして、ストロベリーアイスを載せて、チョコソースをかけたものです).」
「그걸로 주세요.(では、それをください)」
ここまでいってロールプレイングは終わりだ。疲れた。そう思って思わずテーブルに突っ伏してしまう。
「お疲れ様。疲れちゃった?」
「はい。名前はイジュンが決めたけど、どんなものにするかを決めたのは俺なんです。でも、なんて言いづらいのにしちゃったかなって自分を殴りたいです」
「そんなに?」
「そんなにです」
先生は笑っているけれど、俺にとっては言いにくいことこの上ない。なんだか早口言葉を言っている気がする。今は暗記しているから言えるけど、最初、韓国語で書かれたものを読んだときは舌が回らなかった。短文で苺を2回もいうし、外来語を2つも韓国語発音でいうし、先生やイジュンは韓国人だから言えるだろうけど、俺は韓国人じゃない、無理だ。……と言いたいけど、これを言えないとオーダーは言えないと思ったから、何度も何度も口に出して覚えた。今はなんとか言えるようになったけれど、それでも疲れるのは変わらない。
「1度目のタルギは言えてる。ただ、2度目はちょっと言いにくそうだね。それとストロベリーアイスとチョコソースの発音が英語になっちゃうときがあるね。恐らく、日本語じゃない、と思ってるからだろうけど。これは英語じゃないからね。韓国語だよ。こういうときに英語ができることが邪魔することがあるんだと、アスミを見てて思ったよ」
「外来語の韓国語発音難しくて……」
「そうみたいだね。でも、頑張って」
これ、なんとかしなきゃ。家でも発音練習するけど、イジュンに聞いて貰って、発音して貰った方がいいな。
「今後のレッスンでも練習するけど、お店の暇なときに彼に発音を聞いて貰うといいよ。で、彼にも発音して貰って。それを続ければ言えるようになるよ」
「はい」
「彼、トウミやったことあるって言ってたよね」
「そうみたいです」
「そうしたら外国人が躓きやすいポイントとかも知ってると思うからいいと思うよ。それに、彼となら疲れないんじゃない?」
最後に言われたことがなんだか恥ずかしくて顔が熱くなってしまう。いや。いくら相手がイジュンでも、疲れるものは疲れるんだ。
「……ほんとに彼のことが好きなんだね。彼のことになると、すごく優しい顔をする」
そんなこと、あるんだろうか? わからない。意識していることじゃないし。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うよ。人を好きになるのっていいことだと思うから」
いいこと、か。韓国ではゲイは日本よりも認められていないというから、他の人から見て気持ちがだだ漏れになるのはまずいのかなと思っているんだけど、いいのかな?
「大丈夫だよ。確かに彼の話になると柔らかい表情をするけど、そういう関係だとは思いつかないと思うよ」
「それならいいんですけど……」
「安心して大丈夫。俺は知ってるからそう見えるだけで」
安心していいのかな? それでも、ちょっとは気をつけよう。疲れた頭でそんなことを考えた。
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