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桜の散る午後5

「俺の今は明日海とある。ソヨンだからダメなんじゃなくて、明日海じゃなきゃダメなんだ。だから……」 「わかってる。だから、もうこれで終わりにする」 「ごめん」 「謝らないでよ。幸せになってよね、オッパ。私を振ったんだから」 「ありがとう。もう今幸せだよ」 「じゃあもっと幸せになって」 「うん」  オッパを好きという気持ちはこれで終わり。もうオッパの背中は見ない。しばらくは辛いかもしれないけど、失恋なんて日薬だから、そのうちなんとも思わなくなる。だから、それまでの辛抱。 「話しが終わりなら、送って行くぞ」  優しいオッパ。夜は絶対に1人で帰らせない。家まで送ってくれる。でも、今日はその優しさはいらない。   「先に帰っていいよ。私、もう少しいるから」 「でも、もう暗いし」 「大丈夫。友達と遊んだ帰りとかもう少し遅かったりするもの。だから、心配しないで。オッパは疲れてると思うから先に帰って」 「それなら先に帰るけど。帰るならタクシーに乗って。で、帰ったら連絡くれ。心配だから」 「わかった」 「じゃあお休み」 「お休みなさい」  そう言って別れるとオッパは階段を降りてお店を出ていった。優しくて心配性なオッパ。私に対してでもこれだから、きっと明日海に対してはもっと心配性になっちゃうんだろうな。  終わった。これでオッパへの想いは終わった。子供の頃からの10年以上も想ってきた想いが、今日終わった。初恋がオッパだった。初恋は実らないっていうけど本当だった。明日海がいるからってオッパは言ってたけど、きっと明日海がいなくても振られてた。オッパにとって私は妹ポジションで、それ以上でもそれ以下でもない。恋人にはなれなかったけど、妹ポジションではいさせて欲しい。  そう思っていると涙が出て止まらない。悲しい。でも、明日海には敵わないんだ。明日海、男なのに。それでも明日海を選んだぐらいだから、きっと想いはかなり本気なんだろうな。もし、明日海と出会っていなかったら私の方に振り向いてくれたかなと考えてみるけれど、それはきっとない。私はきっと妹でしかいられないんだ。妹でいられる嬉しさと、妹でしかいられない悲しさと。そんな気持ちがないまぜになって、涙は止まらない。涙を止める術がわからなくて、ここが奥の席で良かったと思う。泣き顔は誰にも見られないで済む。でも、涙が止まらないからと言っていつまでもここにいるわけにもいかない。明日も1限目から授業があるから、あまり遅くなるまでいかない。そうしたら、オッパの言う通りタクシーで帰ろうかな。時間が遅くなるから、というよりも電車の中で泣いてるのなんて、失恋してきたって吹聴しているみたいでイヤ。だから誰にも泣いているのがバレないようにするにはタクシーで帰るしかない。だけど、もう少しだけここにいよう。  ボロボロと涙を流しながら、親友のジユンにメッセージを送った。ジユンは、今日私が失恋しに来たのを知っている。「きちんと振られないと前に進めない」と言ったのは他でもない、ジユンだ。 『きちんと失恋したよ』  するとすぐに返信が来た。 「泣いてる? 泣いてるなら、無理に止める必要ないから。でも、その場合、帰るのはタクシーをお勧めする」  タクシーの文字に思わず笑ってしまった。私が同じ理由でタクシーで帰ろうと思っていたから。  『うん。そのつもり』  『それで明日は美味しいスイーツを食べに行こう。で、ソヨンの話し聞くよ。オッパの馬鹿でもなんでもいいから』  『ありがとう。しばらくメソメソしてるかもしれないけど、それは許してね』  ジユンにはいっぱい愚痴ろう。でも、だからと言ってすぐにすっきりするわけじゃないから。だから、しばらくはジユンに泣きつこう。オッパの恋人にはなれなかったけど、そしたらきっと次に好きになる人はオッパ以上に素敵な人で恋人になれるかもしれない。そのときにオッパと付き合っていなくて良かったと思うかもしれない。そんなに甘いもんじゃないってわかってるっけど、今だけはそんな想像を許して欲しい。それに、オッパは知らないかもしれないけど、私、結構モテるんだから。だから、その気になればきっとすぐに恋人なんてできるはず。そう思わないと辛すぎる。  『いくらでも聞くから大丈夫。きっといい出会いがあるよ』  私が思っていたことと同じような返信が来て、気があうなと思う。でも、もしジユンが失恋したら、きっと私も同じこというと思う。失恋したときの慰めワードのひとつだよね。  『ありがと。まだカフェにいたけど、タクシー乗れるくらいにはなったかもしれない』  『うん。それなら帰りな。泣くのに一番おすすめの場所はお風呂だよ。シャワー出してると泣き声聞こえないから』  そんなことを言うということはジユンは経験あるんだなと思う。でも確かに声は漏れない。そっか、そしたら帰ってお風呂に入ろう。そう思ってアイスラテを一気に飲み干し、タクシーを捕まえるべく、大通りへ出た。

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