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桜の散る午後6
ソヨンを置いてカフェを出る。ほんとに1人で大丈夫だろうか。ここは特に治安が悪いわけではないし、1度乗り換えはするけれど家まで遠いわけではない。タクシーを使うように言ったからタクシーで帰るだろうから、その点の心配はない。だけど、今頃泣いているだろう。子供の頃から妹のように可愛がっていたから、ソヨンが泣いていると思うと慰めたくなる。だけど、今日は俺のことで泣いているんだから、俺が慰めるのはおかしい。ソヨンの泣き顔は見たくないだなんて言っても、じゃあ明日海と別れてソヨンと付き合うのかということになる。それはできない。明日海なら泣いてもいいというわけではないし、明日海を悲しませたくない。それに俺が好きなのは明日海だ。だからもし、明日海が俺のことを好きじゃなくなっても俺から明日海を悲しませることはしない。ソヨンには笑っていて欲しいけど、明日海にだって笑っていて欲しいんだ。2人いて。どちらかの手を取るとしたら俺は迷いなく明日海の手を取る。
ソヨンとは家も近いから、子供の頃からよく一緒に遊んだ。仲は良かった。ソヨンは女の子なのに、俺にくっついてよく走り回っていた。女の子の友達と遊ぶよりも俺と遊ぶ方が多かったかもしれない。そう言えば子供の頃、「大人になったらオッパのお嫁さんになってあげる」なんて言ってたな。ソヨンは子供の頃から好きだったというから、その頃から好きでいてくれたんだろうか。ソヨンが俺のことを好きだなんて思わなかった。明日海がソヨンに別れるように言われたと知って、それで初めて気づいた。鈍感……なんだろうな。だからきっとソヨンのことはたくさん傷つけてきたんだろうな。
地下鉄のホームで電車を待ち、考えるのはソヨンのことばかりだ。今日は泣いても明日には笑っていて欲しい。きっと友達に慰めて貰うだろう。と、そこまで考えて、自分がソヨンのことばから考えていることに気づく。さっきのことがあり、頭の中はソヨンでいっぱいだ。
『なにしてる?』
意識を明日海に持って行きたいので、明日海にメッセージを送る。すぐには返信が来なかった。明日海からの返信を待っているうちに電車が駅に滑り込んできて、乗り込む。スマホを手に持ったまま電車に乗り込み、ドアの近くに立つ。明日海に会いたいなと思う。でも、こんな時間になってから行くわけにはいかないし、なによりもう電車に乗ってしまっている。電車が次の駅に着こうとしたときに明日海からメッセージが届いた。
『シャワー浴びてた。イジュンはソヨンさんと会ってたんじゃないのか?』
そう。今日、仕事が終わったらソヨンと会うことを明日海に言っていた。なんだか黙って会いたくなかったのだ。それは悪いことをしているようで嫌だった。明日海だって俺が黙ってソヨンと会っているのは嫌だろうから。そう思って話した。
『会った。で、今帰りの電車』
『早かったんだな』
『うん。なんか明日海に会いたくなった』
『さっき別れたばかりだろ』
『そうなんだけど。でも、明日まで長い』
『なに言ってるんだよ』
そんなメッセージのラリーを続けて、思考はソヨンから明日海へと移る。
『今日は勉強しないの?』
『するよ。メディアが入って、自分がまだ全然わからないんだってショック受けたばかりだし』
『わからないところとかない? あったら教えるよ』
『ありがとう。とりあえず大丈夫かな? それより発音教えて。濃音だの激音とかまであって、さっぱりなんだけど』
そう言えば留学生も初級の頃、濃音と激音の発音を結構練習していたなと思い出す。明日海もそこまで来てるのか。
『じゃあ明日は濃音と激音の練習をしよう』
『うん。お願い』
明日海とのメッセージを交わしながら地下鉄の乗り換え駅で、地下鉄を乗り換える。ソヨンはもう家に帰っただろうか。明日海へといっていた思考が一瞬ソヨンに戻る。俺が店を出てからそれなりの時間が経っているから、きっともう店を出てタクシーに乗った頃だろうか。あの辺は大通りに出ないとタクシーが捕まらないから、その時間が心配と言えば心配だけど。大丈夫なのか訊くのもおかしい。
せっかく明日海に思考がいっていたのにまたソヨンに戻ってしまう。しばらくは店には来ないだろうな。そう思うと少し寂しいけれど、元気になるまでは少し時間がかかるだろうから、その間は仕方ない。でも、ソヨンには幸せになって欲しいから、俺なんかよりいい人と出会って幸せになって欲しい。俺は明日海を幸せにしたいから、ソヨンを幸せにすることはできない。そう考えて、やっぱり明日海に会いたいなと思う。あのとき、明日海の家に寄れば良かったかな、なんて考えてしまう。とは言っても明日には会えるんだけど。明日は少し早く店に着くようにしよう。少しでも早く明日海に会いたいから。そう思って、きっと勉強に集中しているであろう明日海に「お休み」とメッセージを送った。
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