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静かな波紋2
ソヨンさんの姿が見えなくなっても俺は、ソヨンさんの通った道をぼんやりと見ていた。吹っ切れた顔をしていたけど、なにがあったんだろう。考えられるのはイジュンに告白したということなんだろうけど、それで振られたとしたら睨まれると思うんだけど、そんなことは一切なかった。穏やかな顔をして、そしてすっきりとした顔をしていた。イジュンに振られてそうなるんだろうか。一体なにがあったのかさっぱりわからない。
「……み。……すみ。明日海!!」
耳元で名前を呼ばれて我に返った。俺の名前を呼んでいたのは当然だけどイジュンだ。俺はぼんやりとしていたみたいだ。
「お帰り」
「ただいま。どうしたの、ぼんやりして」
「え? あぁ」
「なにかあった?」
「あぁ。ソヨンさんが来たんだ」
「ソヨンが?」
「うん。ソヨンさんってほんとに綺麗だよね。初めて笑顔をみたよ」
「笑顔?」
「そう。笑顔」
俺がそう言うとイジュンは怪訝そうな顔をした。やっぱりイジュンとしてもソヨンさんが俺に笑顔を見せたということは信じられないんだろう。だろうな。実際に笑顔を見た俺ですら、にわかには信じられないんだから見ていないイジュンとしてみたら当然だと思う。
「なにかイヤなことは言われてない?」
「言われてない。俺の作るクレープが好きだと言われた」
「そっか……。ならいいんだ。ところで、キンパ買ってきたから交代で食べよう。明日海、先に食べていいよ」
「ありがとう。じゃあ先にいただくね」
俺はイジュンからキンパを受け取り、イートインスペースへと行く。普段は掃除のときぐらいしか足を踏み入れないけど、たまにはいいだろう。お客さんも少ないし。時間は19時を回ってちょうど夕食時だ。だからお客さんは少ない。さすがに夕食にスイーツを食べる人はいないから。なので、イートインスペースでお店の中を眺めながら食べることにした。
1人になると考えるのは先ほどのソヨンさんだ。ソヨンさんを初めて見たのは空港でだった。それは顔を合わせたわけではなく、遠くから見ていたにすぎない。イジュンの恋人だと思って。そのときに綺麗な人だなとは思った。そして次に会ったのはイジュンの家でだった。俺がイジュンの家に招かれて訪れていたときにソヨンさんは来た。そのときのソヨンさんは俺を無視して韓国語でイジュンにばかり話しかけていて、俺のことは影かなにかだと思ってか、いないものとして扱われていた。それが俺がトイレに席を立ったときに洗面所で顔を合わせたときは敵意むき出しだった。それ以降は無視されるか、敵意むき出しにされるかで、とてもじゃないけど笑顔を向けられることなんて1度もなかったし、ソヨンさんがイジュンのことを好きなことはわかっていたから、どう考えても笑顔を向けられるようになるとは思えない。そんなソヨンさんが俺に笑顔を見せるなんてなにかあったとしか考えられないし、すっきりした顔をしていたことも考えるとイジュンへの想いに区切りをつけたということだろう。ということはイジュンに告白したのだろう。勝ち目がないとわかっていても。だってイジュンが俺のことを好きなのは知っていただろうし。それなのに告白したということは自分の気持ちを整理させたかったんだろうと思う。でも、だからと言って振られるのがわかっていて告白するのはかなり辛かったと思う。なのに、恐らくソヨンさんはそうしただろう。逆の立場で、イジュンがソヨンさんと付き合っているのを知っていてイジュンに告白する勇気は俺にはないなと思う。まぁ告白してもしなくても辛いんだけど、わざわざ辛い言葉を聞くことはしたくない。だから、そうしたであろうソヨンさんはすごいなと思う。でも、イジュンがいたらソヨンさんは来ただろうか。イジュンに会うのは辛いだろうに。それか、遠くから見て、俺しかしないから店まで来たんだろうか。角からだとこちらからは見えないけど、向こうからは店をみることはできる。もちろん店の奥までは見れないから、店の奥にいる可能性はあるけど。そう考えると強い人だなと思う。わざわざ振られるようなことをすることもそうだし、俺に会いにくることもそうだ。イジュンのことは譲れないけど、そんなソヨンさんには幸せになって欲しいと思った。
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