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ほどけない距離3
暇なのをいいことに、イートインスペースでイジュンに思いつくままに漢字とその読み方をノートに書いてもらう。その間俺はカウンターでお客さん待ち。午前中はほんとに暇。お客さんが来るのはだいたい語学堂の授業が終わったあたりから。それから夕食時まではそれなりに忙しい。そうなるとテキストを見たりする時間はないから、テキストを見たり、イジュンに書いて貰うのはできなくなるから今がチャンスだ。しばらくするとイジュンがノートを片手に戻ってきた。
「とりあえず思いついた漢字の読み方と漢字語を書いてみたけど、これで全部じゃないから、あとは思いついたときにでいいかな?」
「うん。それでいいよ。いきなり言われるとね、浮かばないよな」
「逆に新聞を読むかニュースでも見れば漢字も浮かぶんだけどね。いきなりと言われると難しい。だから思いついたらメモして渡すよ。ここをクリアすると新聞とニュースを理解することはできると思うよ。バラエティーなんかは普段の日常生活の単語だからどうしたらいいかちょっと悩むけど、それはそれこそ日常生活を送っていくうちにクリアできると思う」
「そっか。そしたら新聞やニュースの方が暗記でなんとかなるのかな。日常生活の韓国語っていう方が難しいか……」
「それこそ、時間をかけて覚えていくしかないかなって。提案なんだけど、俺との会話を韓国語にしてみない?」
イジュンとの会話を韓国語で? イジュンと出会ったときに英語で話してたから、今までずっとイジュンとは英語で話してた。それを韓国語にする? できるかな?
「韓国語で話していて、言葉がわからなかったりしたら英語で言うから。そうしたら俺としたら明日海がどれくらいの韓国語を覚えたかわかるし。お店で使う韓国語は先生のレッスンのときにロールプレイングでやってるから、お店での韓国語は先生に任せて、それ以外の日常生活は俺が教える。どうかな? いい案だと思うんだけど」
そうか。今までイジュンにはレッスンでわからなかったところを質問していたけど、それだけでなく日常生活もイジュンに教えて貰うのはありかもしれない。大体、怖いなんて言ってられないんだ。韓国語は生活していく上で必要なんだから。それに覚えるのに会話は必要だ。買い物に行ったとしたって韓国語で話さなきゃいけないんだから。それに、イジュンに韓国語を教えて貰うにしても忙しいから時間を作って貰うのも申し訳ない。でも普段の会話を韓国語にすればそれ自体が勉強になる。
「うん。やってみる。最初はわからなさすぎると思うけど、それでも根気よく付き合ってくれるなら」
「そんなのは構わないよ。よし! じゃあ今日から韓国語ね」
「あ、発音も直して」
「もちろん!」
考えてみたらなんでイジュンとの会話はずっと英語だったんだろう。確かにお互いの共通語は英語だったんだけど、韓国に来て、韓国語を勉強し始めたんだから普段の会話を韓国語にすればよかったんだ。それに気付かなかった俺たちは馬鹿だ。でも、最初は直されてばかりで会話が進まないかも。でも、それを乗り越えないと言葉は覚えないからな。逆にイジュンっていう韓国人が近くにいるんだから、活用っていう言葉は悪いけど、活用させて貰えば良かったんだ。最初は拙いだろうな。
「明日海。読み書きは大丈夫?」
「読み書き? どうなんだろう。レッスンで韓国語で日記を書くっていうのはしてるけど、時間としては少ないかな」
「そっか。でもしてるんだね。それならいいけど。昔、トウミをしているときに初級では韓国語で日記を書かされてるっていってたけど、それはもうやってるんだね」
「でも、難しい」
「だけど、それで単語を覚えるし、文法も使うからいいんだよ」
「そっか。じゃあ頑張るしかないか」
確かに韓国語を書くときにわからないと辞書を引くから単語は自然と覚えられるし、文法も覚えていくんだろう。でも、イジュンは留学生のトウミをしていただけあって、韓国語を教えたりするのうまいな。先生ほどじゃないけど、留学生がどうやって授業を受けてたかを知ってるっていうのはいい。そうだよな。こっちにきて、時間があれば語学堂に通えば良かったんだ。でも、お店の開店が春と決まってたから、大学を卒業してすぐこっちに来て、語学堂に通う時間はなかった。その代わり週に3回マンツーマンのレッスンを受けているんだけど。毎日学校に通うのと週3回マンツーマンでレッスンを受けるのはどっちがいいんだろう。でも、ひとつわかっていることは俺のおかれている環境が恵まれているっていうことだ。マンツーマンでのレッスン。それはジヌ先生のレッスンだけでなく、イジュンと韓国語で会話をするのならレッスン日が週3回から毎日になるっていうことだ。そしてお店で嫌でも韓国語で話すすし。学校で何人ものクラスで勉強するのもいいけど、やっぱりマンツーマンが一番いいだろう。恵まれた環境なのなら、それを生かさない手はない。でもこれもイジュンが嫌がらずに、むしろ積極的に教えようとしてくれているからだ。イジュンのそういうところが好きだと思う。やっぱり韓国語で気持ち伝えられたらいいな。
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