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第9話
いつもの日常に見えるが、確実に何かが違うそんなある日の出来事。
館の従業員は皆どこか落ち着きがなく、気がはりつめていた。
そんな日でも通常通りお客は来るわけで、メルヴィンは一人目の客の相手を終え次の客が待つ部屋へと移動しようと廊下を歩いていた。
そこを丁度通りかかった支配人に呼び止められたのだ。
今日の館の異常はメルヴィンも感じ取っている。
そして仕事中に呼ばれることのない支配人からのお呼び。
メルヴィンが不審を抱くには十分だった。
疑いを思ったまま支配人の後をついていき、支配人部屋に入る。
座るよう促され、支配人の座ったソファーにテーブルを挟んで向かい合っているもう一つのソファーに座った。
「メルヴィン、お前をイルレオーネ帝国の献上品として捧げることとなった」
支配人は手を組むとおもむろ口を開き、驚愕の内容を口にした。
突然の通達に耳を疑う。
「迎えがもう到着している。さっさと準備をして行け」
それ以上の説明をする気はないらしく、放心状態のメルヴィンを置き去りに早々に立ち上がり「達者でな」の一言を残して退室していった。
(こんなことになろうなんて…)
部屋に残されたアルヴィンはガクリと肩を落とす。
実はメルヴィンはここの支配人とも肉体関係を持っていた。
そのおかげでここで過ごしやすくなり、何か都合の悪いことややりたくないことはある程度免除されていた。
その行為にはメルヴィンの意思関係なく何処かへ売り飛ばされないためにという意図もあったのだが、どうやら今回は支配人の力を持ってしても覆すことは出来なかったようだ。
(これはもう行くしかないのか…)
この館においての最高責任者である人物が頭の上がらない相手にメルヴィンがどうこう出来るわけもない。
部屋の外をチラッと覗くと入口のほうに眼鏡をかけた使者らしき男と彼を囲む四人の若そうな騎士と侍女とみられる女が二人いた。
その眼鏡をかけた男に支配人は何度も頭を下げ媚を売っているところを見る限り相手はかなり上流階級に見える。
(これじゃアイツがどうこうできるわけもないか…)
状況を見て逃げ場はないことを察したのか抵抗することなく大人しく相手に従うことにした。
(さぁて、これからどうするかな…)
しかし頭の中ではこれからどうしたものかと頭をひねらせる。
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