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第10話
風光明媚の地、イルレオーネ帝国とはこの国から北に位置していて海に面している大国だ。
国土の広さ、豊かさで大陸一を誇っている。
夏は涼しく過ごしやすく、 また四季折々の自然を感じることができる景色は自然豊かなイルレオーネ帝国ならではの特権と言えよう。
そのイルレオーネ帝国が国が弱っているのをいいことにルシオール王国の豊富な資源に手を出そうとしていた。
しかし元フェーリア王国との戦をつい数年前に終えたばかりのルシオール王国がイルレオーネ帝国と戦争をしたところで負けは目に見えている。
故にルシオール王国はイルレオーネ帝国が提示してきた相手に都合の良い条件が揃った名ばかりの友好条約を結ぶことになったのだ。
いくつかあったイルレオーネ帝国からの要求の内のひとつが、元フェーリア王国王子メルヴィンを差し出すことだった。
他の条件とは大きく違うそれに王国側は動揺を見せたが、そんなモノで満足するのであればそれに越したことはない。
そしてあの日、イルレオーネ帝国からの使者がメルヴィンを迎えに来たのだと馬車の中でその使者――フィデール――から聞かされる。
一週間の間馬車に揺られては近くの町にある宿で泊まりを繰り返し、やっとイルレオーネ帝国に着いた。
その間メルヴィンが乱暴な扱いをされることはなかった。
寧ろ腫れ物に触るように扱われていた。
使者とはこれまでの経緯を話してもらって以来これと言った会話はなかった。
他のメイドや護衛の者とも会話と言えるものはしなかった。
ただ言われたことと言えば、「今日はここに泊まります」や「お食事をお持ちいたしました」などの業務的な一方的なものばかりであった。
メルヴィンを気遣うような言葉は一つもなかった。
ぞんざいな扱いをされるわけでもなく、かといって丁重に扱われているわけでもなかった。
その異様な空間にメルヴィンは不信感を募らせていた。
彼らに歓迎されているとは到底思えない。
一度逃亡を試みた時は感づかれてしまい、「逃げ出そうとした場合、容赦なく罰を与えていいと仰せつかっておりますのでそのようなバカな考えはオススメ致しません」と無表情のまま言われた。
それ以来逃亡は諦め、不安を感じたまま素直に従った。
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