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第11章 嚙み合わないままの『二人の想い』
ピザやパスタを適当にテーブルに並べ、眞陽は取り皿の用意をするために、もう一度キッチンへ行った。何となく京極が居心地悪そうなのを背中で感じていた。眞陽も同じ感覚で、用意する手元が遅くなる。
もたもたしていると、京極が立ち上がって、
「僕も何か手伝うよ」と、言って眞陽の側に近づいてきた。
眞陽に何を言われたわけでもないが、京極はドリンク類を冷蔵庫から適当に取り出すと、
「眞陽君は、グラスで飲む派?」と、言いながら缶ビールを眞陽に見せた。
「いや、そのまま飲む派だよ」
「じゃ、僕も、このミネラルウォーター、ペットボトルのまま飲んでもいい?」と、京極は少しにこやかな表情で言った。
眞陽は、京極の目の奥を純粋さにドキッとして、何となく目を逸らした。そして、
「冷えたのがいいなら、氷とグラス用意するよ」と、誤魔化すようにグラスを取り出しながら言った。
なんとなく始まったお家デートなのだが、あんなにお互いソワソワと、この瞬間を待ちわびていたのに、眞陽は何となく自分のブレ具合に気持ちが乗らなかった。
京極も、眞陽の雰囲気から感じ取っていた違和感に、素直にこのひと時を楽しめないでいた。せっかく好きな人の家に来たのに、飾らない眞陽を表現しているかのような、殺風景な一人で住むには広すぎるマンション。普段の愛想のいい眞陽の雰囲気とは一転していて、新たな一面を見せられた、と思った京極であった。
そして、いまいち話も盛り上がらず、しまいには互いに無言になってしまった。
眞陽は、姉の死の真相を知るための目的と、京極への素直な想いとで揺れていた。京極を知れば知るほど、姉に酷い仕打ちをした人物には到底思えなかったのだ。ただ、人の裏の顔というものもあるわけで……眞陽は考えれば考えるほど、底なし沼にはまっていくような感覚になっていた。
「眞陽君……どうかした?」
京極はこの空気感を変えようとか、そういうつもりではなく、何となくそう眞陽に声をかけた。
「……ケーキ食べよ」
眞陽は京極に返事をする代わりにそう言って、冷蔵庫へ向かった。冷蔵庫を開けた眞陽は、二つ並んだケーキ箱を見て、どっちを選べばいいのか、と手が止まった。
「眞陽君……」
京極はそう言うと、眞陽の背中を優しくさすった。
「今日はずっと変だよ。何かあったのか?僕でよければ話を聞くし、僕には言えない事なら、無理には聞き出さない。でもね、嘘だけはついてほしくないよ」と、少し震えがかった声で言った。
その声色に眞陽は思わず振り向いた。京極はにこやかにしていたが、瞳は今にも泣きだしそうな感じだった。
それを見て、眞陽は京極が持ってきた方のケーキ箱を手に取って、隣に座った。
「うん……でも、大丈夫だよ。ありがとう……」
眞陽も消え入るような声で嘘をついた。
京極は何かを察したように、
「君のタイミングでいいからね……」と言った。
京極がケーキ箱から、ブルーベリーのレアチーズケーキを取り出した。
眞陽はそれを一口食べた。
「めちゃ美味い……」
甘酸っぱさが口の中に広がっていく。眞陽は自分のブレた気持ちも一旦セーブした感覚になった。
「ごめん……今日、楽しみにしてたでしょ?俺も凄い楽しみにしてたんだけどさ……俺が何となくぶち壊したよね」と、眞陽は呟いた。
京極も一口食べながら、
「うん、そうだね。でもさ、人って何かしら悩みながら生きているもんだと思うよ」と、優しく言った。
京極が、あまりにも懐が広すぎて、余計に眞陽は辛くなった。京極を騙しているような感覚になって辛かった。
「僕を好きだと思っているのであれば、そんな顔して欲しくない……かな」と、京極は俯いて呟いた。
「本当に今日の俺、全部ダメだね」
眞陽はそう言うと、自然に京極の肩を抱いた。やっぱり好きなんだ、そう認めざるを得ない瞬間だった。
すると京極は、
「今日は、僕帰るよ……」と、言った。
驚いて京極の顔を見る眞陽。
「ごめん、待って。今から、お家デートやり直すから」と、眞陽は慌てて言った。
「眞陽君。無理しないでって言ったでしょ。またにしよう。次は、泊まらせてね」と、京極は自らテーブルの上を片付け始めた。
「待ってよ。本当にごめんて」
眞陽は堪えきれず、京極を後ろから抱きしめた。
「眞陽君……」
「じゃぁさ、送らせてよ。パーキングに停めたって言ってたでしょ。そこまで送らせて」
しばらく無言でいた京極だったが、
「じゃぁ、そうしてもらおうかな」と言った。
◇◆◇◆
時刻は21時を過ぎた頃だった。本当に帰るんだと思うと、眞陽は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。それと寂しさもあった。歩きながら京極に近づいた本来の目的が薄れつつある自分にも複雑な思いになり、ただため息ばかりが漏れた。
それを見ていた京極が、くすっと笑った。
「え?」と、眞陽は京極を見た。
「凄く変だよ。ため息ばかりついて。理由が、お家デート失敗したのがショックだった、なら僕はちょっと嬉しいけどね」と、京極は優しい表情で言った。
だいぶ年上だが、こんな風に心をキュンとさせてくる京極に可愛らしさを感じた眞陽。
余計にため息が出る。
また京極がクスッと笑う。道中そんな感じであった。
「ありがとう。送ってくれて」
パーキングに着くと、京極は眞陽の正面を向き、そう言った。
「本当に帰るの?」と、眞陽はもう一度だけ確認した。
「うん。帰るよ。君との関係は大切にしたいんだよ。分かってるでしょ?」と、京極は言った。
そう言われて、眞陽はまたため息をついた。
「もう、なんでため息ばっかり」
京極は声を出して笑いながら言った。それは、心から笑っているわけではないことは、眞陽にも分かっていた。
「ちょっとこっち来て」と、眞陽は京極の腕をつかんで、人目につかない場所に移動した。そして、
「京極さん、少し屈んで」と、言った。
京極は眞陽の言う通りに少し屈んだ。すると、眞陽は京極の両肩を掴んで優しいキスをした。
びっくりした表情の京極。ちょっと固まってしまっている。
「京極さん、俺より背が高いから、仕方ないだろ」と、眞陽は照れを隠しながら言った。
不意打ちのキスをされて、京極は少し遅れて顔が真っ赤になった。でも、とても嬉しかった。少しでも眞陽の気持ちを疑っていた自分に反省した。
ずっと京極は、本当は眞陽の気持ちは自分の方に向いていないのでは、と疑っていたのだ。今日実際に眞陽の自宅へ行ってみて、なんだか上の空の眞陽を見ているうちに、やはり自分の心の温度と合っていないかもしれないと、少し落ち込んでいたのだ。
「そんなに驚くことないじゃん」と、眞陽は少し拗ねたように言った。
「驚くに決まってるでしょ。外だし……」
京極はそう言いながら、火照った体を鎮めるように深呼吸した。
「好きなんだからさ……キスしたいじゃん。それに今日は俺、泊まって行ってくれると思ってたし……」
京極には、彼氏の言い訳に聞こえていただろう。だが、眞陽は自分の気持ちを再確認した瞬間でもあった。『京極久紫を愛している』と。
◇◆◇◆
その様子を気配を消しながら、じっと見つめていた人物に二人は気付いていなかった。
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