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第2話

ㅤ―――  堀の部屋は、整っているが生活感が薄い。1Kの部屋に武田を招き入れ、堀はその辺にカバンを置く。ソファなんてものはないから、自然にベッドに座ることになる。 「意外とちゃんとしてんな」 「どういう意味だよ」 「もっと散らかってるかと」 「失礼だな」  軽口を叩きながらも、堀はどこか落ち着かなかった。  武田が部屋にいる。それだけで、空気の密度が変わる。 「で」  武田が距離を詰めてくる。 「見せろ」 「だから言い方」  堀は観念して、シャツのボタンを外した。自分で触ると、やはりじんわりと滲む。 「……ほんとだな」  武田の声が、少し低くなる。 「だろ?」 「触っていいか」 「確認ってやつか」 「ああ」 「……まあ、いいけど」  すかさず武田の指先が触れる。ひやりとした感触に、思わず肩が揺れる。 「うわ、ほんとに出てる」 「言わなくていい」  武田はじっとそれを見ている。つん、と先端を触れられて、変な声が出そうになる。 「……すげえ」  武田はゴツいカブトムシを見たみたいな顔で堀の目を見ている。なんか、さっきと違う顔をしている。少しアンニュイなその顔は、社内の女子が見ればため息が出るぐらいに色っぽい。でもこいつが見てる先は、なにを隠そう成人男性の乳首だ。 「……それ、吸ったら、どうなんの」 「は?」 とうとう、武田の本音っぽいセリフが漏れた。お前最初からそういう目で見てたろ、と言いかけたが辞めた。 武田は誤魔化しもせずに続ける。 「分泌は刺激で増える。プロラクチン的に」 「雑すぎるだろ」 「だから検証するしかない」 「結局それじゃねえか」 武田はそうこうしているあいだにもじわじわと濡れてくる胸を見つめている。……もはや胸と会話してるんじゃないのか、こいつ。 「……もしかして」 「ん?」 「これで論文書いたらさ」 「……おう」 「平和賞取れるんじゃね?」 真面目に聞いた自分が馬鹿だった。堀は頭を抱えた。 「ノーベルが泣くぞ」 「正直に言うと、吸いたい。……ダメか?」 武田は捨てられた子犬みたいな顔で堀を見てくる。 「う……」 堀は目を逸らしそうになる。やめろ、そんな目で見るんじゃない。  断る理由はあるはずなのに、うまく言葉にならなかった。 むしろちょっとだけこの光景に、ドキドキしていた。 「……ちょっとだけな」 これやったら絶対戻れねえやつじゃん、って頭ではわかっているのに、止められなかった。 「先っちょだけってか」 「うるせえなマジで」  気づけば、そう言っていた。武田が顔を寄せる。目鼻立ちの整った顔がぐっと近付く。呼吸がかかって、くすぐったくなる。なんでこいつ彼女いないんだよと思ったが、むしろいない方が順当なのか……?とか考えてる時点で変だ。  そう思ってるあいだに、そのまま吸われた。 「……っ」  思っていたより、ずっと直接的な感触だった。逃げるべきなのに、体が動かない。  むしろ、さっきよりも強く、なにかが滲む感覚。 「……は? なに今の、ちょ、待っ、うぁ……っ♡」 思わず変な声が出る。 「……出てる」 どっちが、と思ったが、すぐに母乳のことかと気付く。 「実況、すんな……っ」  けれど声が弱い。武田がちゅぱ、と唇を離す。 「甘くて、コクがある」 「だから実況すんなって……!」  堀が言うと、武田がふっと笑った。濡れた乳首に息がかかり、くすぐったさに思わず身震いする。 「なんでこうなってんだよ」 「知らねえよ」 「……でも」  武田が堀の体を押す。ベッドの上にどさ、と押し倒されて、堀は思わず瞬きした。 「嫌じゃないだろ」  否定しようとして、言葉が止まる。どきりと心臓が鳴る。  嫌じゃない、というより拒む理由が、思いつかない。逃げようと思えば、蹴り飛ばせた。けれどできなかった。 ふざけんなよって思ったのに、代わりに返事をするように、じわ、と母乳が滲んだ。 押し倒された姿勢のまま、武田が再び胸にむしゃぶりつく。最初はくすぐったさの方が強かったのに、だんだんと余計な感覚を拾い始める。 「……っ、ちょ、待て、今の、変な感じ……っ」  自分で言ってて意味が分からない。くすぐったいはずなのに、逃げようとすると逆に意識がそこに集まる。  ちゅ、と吸われるたびに、じわ、となにかが滲む。 「……増えてるな」 「実況すんなって……っ」  武田の声はやけに落ち着いている。こっちは全然落ち着いていないのに。 「刺激に対して反応が顕著だ」 「だから論文にすんなって……!」  言い返したつもりなのに、語尾が少し崩れる。無意識に腰が浮いて、そしたら自然と武田の前に胸を差し出す形になる。それをいいことに、武田は堀の胸を触る。 指のあいだに挟んだり、引っ張ったり。片や、もう一方で武田は赤ちゃんみたいに堀の胸を舐めている。 吸ったり、舐めたり、舌で転がされていくうちに、だんだんと声が上擦る。おかしい、そんなところ、性感帯でもなんでもなかったはずなのに。 「あっ、あ、ふ、うぅん……っ♡」 ……気持ちいい。 そのまま、武田の手がゆっくりと下に滑る。 「おい、待て、そこは……っ」 「関連データの取得だ」 「どこの分野だよそれ……!」  思わず肩に力が入る。止めるべきなのに、完全には振り払えない。 「……抵抗が弱いな」 「うるせえ……っ、今それどころじゃ……」 その時だった。ふと、太ももに硬いものが当たった。わずかに弾力のあるそれは武田の下肢についてるヤツで、そのバナナ状のそれがなにかは、考えなくてもわかる。いや、ナニなんだけど。 「……あの、当たってますけど」 思わず敬語になる。 「知ってる」 「知っててそのまま行くなよ……!」 「自然現象だ」 「だからってそんな……」  言いながらも、押し返す力は弱い。むしろ意識したせいで余計に存在感が増す。 「……っ、ちょ、離れろって……」 「距離はこのくらいが最適だ」 「最適化すんな……!」  武田の手が止まらない。さっきまで胸に集中していた感覚が、じわじわと下に引っ張られる。  逃げようと腰を引いたはずなのに、逆に擦れる。 「……っ、今の絶対わざとだろ……」 「偶然だ」 「絶対違う……っ」  呼吸が乱れる。自分の声じゃないみたいに、少しだけ甘くなる。 「武田、ま、ぁ……っ♡」  言いながら、自分でも分かる。さっきまでなら普通に止められたはずだ。けれど、でも、心のどこかで、止めたくないっていう淡い期待にも似たものが胸に沸き起こる。武田は学生時代からの親友で、同僚のはずだ。だけど今しているのは…… そこまで考えて、堀はギリギリで正気に戻る。 「……待て、そもそも入れる必要あるのか?」  最後の理性みたいに言葉を絞り出す。 「……毒を食らわば皿まで」 「毒扱いすんじゃねぇ」 「もう飲んでるだろ」 「例えが最悪なんだよ!」 「だとしたらドリンクバーだな」 「最悪」 「セルフサービスだ」 「本当に黙……あっ♡」  そのやり取りのまま、距離が詰まる。武田は胸を触りながら、片手で器用に堀のスラックスを脱がしていく。あれよあれよという間に下着だけになる。スースーして少し涼しいと思ったのもつかの間、堀はあることに気付いた。 「うえぇっ!?」 堀のそこは、武田に負けないぐらい硬く張っていた。堀でさえ気付いたそれを、武田が気付かないはずもなく。 「お前も気持ちよくなってんじゃん」 武田はにや、と笑う。どこか嬉しそうな笑みだった。最後にパンツを脱がされる。硬く反り勃ったそれが弾みをつけて現れて、堀も思わずぶるりと体を震わせては身を硬くする。 「変態だな」 武田にそう言われて、堀の顔がカッと熱くなる。 「どの口が……ってか、お前が言うな、ぁっ♡」 すかさず、武田は堀のそれを下着の上からぐにぐにと触る。武田に噛み付こうとした言葉もすぐに勢いを失い、口からは情けない声ばかり出る。恥ずかしくてたまらなくて、死にそうだった。  逃げようと思えば、できた。蹴り飛ばすことだって。  ――それでも、体が動かなかった。 気が付けば武田の呼吸がますます荒くなって、武田のそこも反応しているのがわかった。堀は思わず目を見開く。そして武田もとうとう服を脱ぐ。 「……堀」 「なんだよ」 「……いい?」 最後の砦だった。そこから先、想像できるのは一つしかなかった。ごくりと唾を飲む。その感覚さえ、妙に生々しくて。 「……ほんとに、やるのか」 そう聞いているあいだにも、胸はまた母乳でしとどに濡れてくる。 「ここまで来てやめる理由がない」 「あるだろ常識的に……っ」  言いながらも、手は武田の服を掴んでいた。やがて、ぐっと力がかかる。 「や、優しくして……俺、初めて、だから……っ」 そう言うと武田は入口で止まったまま、ふと堀の顔を見た。目が合って、ドキリとする。やっぱり武田って顔いいな、と思ってしばらく見ていたが、武田は動こうとはしなかった。 「え、え、なになにこわいこわい」 なにも言わないままフリーズしている武田を前に、堀は思わずなにか付いてるのではと思って自分の髪や顔をペタペタ触る。 やがて、武田は少しだけぶっきらぼうに、けれど一度外した視線を再度堀に向け、それから言う。 「……努力する」 そして少しだけ武田の顔が赤くなった。瞬時に堀は青ざめた。 「てか、まって、今の笑うとこだから……ッ」 「そうなの?」 「うん」 「8点」 「何点満点だよ……っ」 「100」 「低すぎるだろ!」 逆にそこの加点要素がなんなのか、聞こうとした言葉は無惨にも遮られる。武田のそれが奥まで入ってきて、息が出来なくなる。圧倒的な存在感に息が一瞬止まって、そのあと一気に荒くなる。 「優しくって、言っだのに……ッ」 恨み節をそのままぶつけるが、効果はいまいちだった。 「ごめんごめん」 そう言いつつ、武田が動く。 「……っ、ちょ、待っ――」  言い終わる前に、体がびくりと跳ねた。 「……今の、絶対いらなかっただろ……っ」 「初期反応の確認だ」 「確認すんな……あっ♡」  自分でも抑えきれない声が混じる。すぐに顔を背ける。 「……今の無し!」 「記録済みだ」 「消せ!!」  武田は小さく笑うだけで、手を止めない。  さっきまでの余裕はどこかに消えて、息が少しずつ乱れていく。ぐちゅ、とえっちな音が聞こえて、武田とセックスしてるという事実に頭がくらくらする。 「……っ、だから、待てって……言ってんのに……っ♡」 武田は止まらない。熱いところがこすれて、快感がせりあがってくる。  どこからが境目だったのか分からないまま、ただ距離がなくなっていく。  息が混じって、触れる場所が増える。  考える余裕が消えていく。 「堀……っ」 「あっ、あ、あぁっ……♡」 もうイク、となりそうになった時のことだった。  途中、ふいに唇が重なった。 「……っ、は?」  一瞬、なにが起きたのか分からなくて目を見開く。 なんで、と聞こうとした言葉も、武田のキスで塞がれる。唇も下も蹂躙されて、なにも考えられなくなる。胸の先端がじんじんと熱い。そのまま、頭が真っ白になる。 「――っ!」 全身がぶるぶると震えて、なにが起きてるのかわからなかった。直接触れられてなかったそれからびゅくびゅくと白濁液が溢れて、堀の腹を汚していた。 やがて武田が止まる。堀の中でびくびくと震えている。武田もイッたんだという認識が、ゆっくりと下りてきた。 「今の、なに……?」 「キスだろ」 「それはわかってる……!なんで……」 「接触面の追加」 「理由の方向性がおかしいだろ……っ」  言い返す声が、少しだけ掠れた。  でもさっきの感触が頭から離れない。 体の熱が引かないまま、堀は深く息を吸う。 気が付けばミルクの匂いが、部屋に満ちている気がした。  天井を見ながら、二人はしばらく動けなかった。 「……なにしてんだろうな、俺ら」 「さあな」  武田はやけに満足そうな声で答える。二人で裸になって、ベッドで横になっている。なんでこんなことになったんだっけ、とぼんやりと考えるがわからなかった。 「母乳プレイって使い古されてるけどさ」 「……おう」 「お前の母乳はめっちゃ新鮮だな」 「キッッッ……なにが新鮮だよ!」 「産地直送」 「どっちかってーと地産地消だろ」 「そうそれ」 「納得すんな」 「いやでも、流通コストゼロだし」 「ビジネスにすんな!」 「品質管理も俺がやる」 「やらなくていい!!」  そしてふと、武田は体を起こして堀を見る。 「堀」 「ん?」 神妙な顔に、堀もまた身体を起こして武田を見た。昼下がり、柔らかい光がカーテン越しに降り注いでいた。どこか神聖な雰囲気のある部屋の中で、武田が口を開く。 「お前の母乳を毎日吸わせてくれ」 「……は?」  頭の中で言われたことが理解出来ずに、堀はフリーズする。 「……味噌汁みたいに言うなっ」  思い切りツッコむと、武田は少しだけ笑った。 「でも本気だ」 「どこがだよ」 「さっきのでわかった」 「なにが」 「俺、お前のことが好きだわ」  今度は、堀が黙る番だった。  冗談みたいな流れの中で、それだけ妙にまっすぐだった。 「……今それ言う?」 「今しかないだろ」  堀は両手で顔を覆う。 「順番めちゃくちゃすぎるだろ……」 「結果オーライだ」 「よくねえよ」  そう言いながら、さっき、自分が拒まなかった理由を考える。 「……俺も」  小さく呟いて、指の隙間から武田を見る。 「たぶん、そうだし」  武田が一瞬止まって、それから少しだけ息を吐いた。

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