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■3 密着イベント連発
カオルが村に来て、一週間。
最近、村人たちの視線が妙にあたたかい。
いや、違う。
あれはあたたかいんじゃない。
面白がっている。
「おいレン、今日も嫁さん連れてんのか」
「誰が嫁だぶっ飛ばすぞ」
「顔赤いぞ」
「うるせえ」
朝から鍛冶屋の親父に絡まれ、俺は盛大に舌打ちした。
その横でカオルは首を傾げる。
「よめ、とは何の事ですか?」
「知らなくていい単語だ」
「でも皆さん、私を見るたびそう言います」
「気のせいだ」
「レン、耳まで赤いです」
「うるせえ!!」
くすくす笑うカオルが、今日もかわいい。
腹立つくらいかわいい。
****
昼。
修行場になっている草原で、俺はカオルの向かいに座っていた。
「今日は魔力の循環だってよ」
「はい。触れた相手へ、優しく流す練習だそうです」
「へえ」
「なので……手を」
「……あ?」
差し出された白く細い手。
綺麗すぎるだろ。
男の手なのに、なんでそんな指長くてすべすべなんだ。
「レン?」
「お、おう」
恐る恐る重ねる。
ぴたりと触れた瞬間、びくっと肩が跳ねたのは俺だった。
「熱あります?」
「ねえよ」
「でも、手が熱いです」
「気のせいだ」
「顔も赤いです」
「気のせいだって言ってんだろ!」
カオルはふふ、と笑い、そっと目を閉じた。
「……魔力、流します」
静かな声と共に、手のひらからじんわりと温かさが伝わってくる。
心地いい。
やたら心地いい。
眠くなるような、抱きしめたくなるような。
「……レン」
「ん?」
「心臓すごく速いです」
「集中しろ!!」
****
修行の帰り道。
村へ戻る坂道で、カオルの足が石につまずいた。
「きゃっ」
「っと!」
咄嗟に腕を掴み、そのまま腰を抱いて引き寄せる。
結果、カオルは完全に俺の胸へ飛び込む形になった。
「……あ」
「……」
近い。
鼻先が触れそうな距離。
長いまつ毛が揺れている。
「す、すまん」
「いえ……助かりました」
そう言いながら、カオルはなぜか離れない。
「……カオル?」
「……少しだけ、このまま」
「なんで」
「安心するので」
そんな真顔で言うな。
心臓がうるせえ。
****
午後。
訓練の疲れで汗をかいたカオルが、井戸端で顔を洗っていた。
濡れた銀髪が頬に張りつき、妙に色っぽい。
見てはいけない気がする。
「レン」
「うおっ」
「どうしました?」
「なんでもねえ!」
カオルは小さく笑い、濡れた髪を耳にかける。
だめだ。
仕草の一つ一つが攻撃力高い。
「汗、ついてますよ」
「え?」
近づいてきたカオルが、俺の額へ手を伸ばした。
柔らかな指先が触れる。
「……取れました」
「……そうか」
「レンの方が、ずっと熱いですね」
「もうやめてくれ」
****
夜。
村の外れまで買い物に出た帰り、急に雨が降った。
「うわ、最悪!」
「レン、あそこに小屋があります」
二人で駆け込み、小さな納屋へ逃げ込む。
狭い。
とにかく狭い。
肩どころか太ももまで触れている。
外では激しい雨音。
中では俺の心音。
「……近いですね」
「そう思うなら離れろ」
「離れる場所がありません」
「……そうだな」
カオルは俺を見上げ、小さく笑った。
「でも、少し嬉しいです」
「……は?」
「レンと、こんなに近いので」
無理。
耐久値ゼロ。
****
その夜。
宿屋の主人に頼まれ、俺はカオルの部屋へ薬草茶を届けることになった。
「入るぞー」
返事がない。
扉を開けると、ベッドの上でカオルが丸くなって眠っていた。
無防備すぎる。
長いまつ毛。
少し開いた唇。
寝息まで可愛い。
「……おい、カオル」
肩を揺すると、薄く目を開ける。
「……レン?」
「茶、持ってきた」
「……ん」
次の瞬間。
ぐい、と腕を引かれた。
「うお!?」
そのままベッドへ倒れ込み、気づけばカオルに抱きつかれていた。
「ま、カオル!?」
「……あたたかい……」
「寝ぼけてるな!?」
「レン、好き……」
「っ!!?」
全身の血が逆流した。
「お、おい今なんて――」
「……すぅ……」
寝た。
こいつ、言うだけ言って寝やがった。
俺は腕の中で幸せそうに眠る顔を見つめ、天井を仰ぐ。
無理だろ。
こんなの、好きになるなって方が無理だ。
****
翌朝。
宿屋の前で会ったカオルは、いつも通り澄ました顔だった。
「おはようございます、レン」
「……おう」
「どうしました?顔色が悪いです」
「誰のせいだと思ってんだ」
「?」
本当に覚えていない顔だった。
その無垢さに腹が立って、愛しくて、どうしようもない。
「……カオル」
「はい?」
「俺、お前のこと……」
そこまで言って、言葉が止まる。
カオルは首を傾げる。
「私のこと?」
「……いや、なんでもねえ」
まだ言えない。
でも、もう分かってしまった。
俺はこいつに、完全に落ちている。
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