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第4話
「何はともあれ、陽助が無理に連れてきて、手荒な真似をしてすまなかった」
神榊が綾人に謝罪をする。
「しかし、妖の存在が世に広まり混乱を起こす訳にはいかない。…どういうことかわかるな?」
「…ああ。いきなり妖怪がどうだとか言っても、おかしなヤツと思われるだけだろうし。言わねーよ」
「すまんなぁ」
「てか、記憶消すとか言ってたのはどうなったの?」
陽助は、初めて会ったあの夜に、綾人の記憶を消そうとしたはずだ。どう言うわけかまだはっきりと残っているが。
「………ごく稀だが、私たちの秘術が効かない人間もいるんだ。」
「おんおん。そもそも、人の記憶消すなんてのはかなり難易度の高い術なんやから!」
「ふ〜ん?そういうもんなのか」
綾人は何だか腑に落ちない気もするが、とりあえず理解を示した。
「長い間おしゃべりに付き合うてもろて悪かったな。家まで送ってやるわ」
「いや、いい」
「ゆーてもジブン、ここがどこかわかるんか」
眠っている間に連れて来られたことを思い出した綾人は、陽助の言葉に甘えることにした。
「やけど、ここがどこかはナイショなもんで、また眠っててもろてええか」
どうやら、還妖隊はアジトの場所すら謎めかされているらしい。綾人はもう疲れていたので、眠っている間に家まで連れてってくれるならいいか、と楽観的に考えて了承した。
「では、綾人くん。くれぐれも夜道には気をつけなさい」
別れの挨拶をしてくれた神榊の姿を最後に綾人の意識は途切れ、次に目を覚ますと自宅のベッドの上だった。
「…狐にでもつままれたみたいだ」
妖についてや還妖隊の存在など、現実離れした話に色々思うところはあったが、綾人は、考えるのを放棄して一眠りすることにしたのだった。
・
「帰ったか」
神榊が襖が開いた音のする方を見ると、綾人を送り終えた陽助が部屋に入ってきた。
「只今。は〜、疲れた疲れた」
陽助は床にある座布団にドスンと腰を下ろし、自分の肩を拳で叩いている。
「帰って早々悪いが、彼のことを改めて詳しく説明してくれ」
先ほどは、陽助が綾人を連れ帰ってから綾人が起きるまでの間しか話を聞くことができていなかったので、神榊は陽助に続きを促す。
「単刀直入に言えば、アイツ……甲斐綾人は、厄養や」
陽助の言葉を聞いた瞬間、神榊は目を見開き、パッと顔を上げて陽助を見る。
「厄養だと…!?」
「おそらく、な」
部屋の中に、一気に緊迫感が増す。
「………根拠は?」
「神榊さんも薄々気づいとるやろ。この俺らの秘術が効かなかった」
「………」
「そして極めつけは、昨夜の妖がアイツの血に触れた瞬間、興奮状態に陥った」
「…なんと!」
神榊は、信じられないと言った様子で額に手を当てる。
「…前回の厄養の出現からまだ100年も経っていないぞ…」
「俺も初めは何とも思ってなかったんやけど、今思い返せば条件に当てはまりすぎとる」
「……………」
しばらくの間沈黙が続いたが、それを破ったのは神榊だった。
「…しかし、まだ確証を得るには少しばかり早いだろう」
「せやな。しばらくの間、監視でもしてくるか」
神榊は驚いた様子で陽介の顔を見た。
「陽助……お前、大丈夫か」
「何がや」
「いや、お前、厄養は………」
「…もう何年も前の話や」
そう言って陽助は神榊から視線を逸らす。
「陽助」
「じゃ、俺は明日以降の準備でもしてくるわ〜」
神榊の言葉の続きを待たずに、ヒラヒラと手を振って部屋を出ていく陽助を、神榊はどこか心配そうな面持ちで見送るのだった。
・
翌日、綾人は端留と一緒に食堂で昼食を取り、午後の講義へ向かうためにキャンパス内を歩いていた。端留は日差しを避けるためにわざわざ日陰を通りながら歩く。
「出た、美白王子」
いつもの光景に綾人が茶化す。
端留は特に病気なわけでもなく、ただ嫌いという理由のみで、異常すぎるほど日光を避ける。
綾人はその美意識に尊敬の念と共に呆れも抱いている。
「何でそこまでするか……ねっ!?」
その瞬間、綾人が、ある方向を見てギョッと目を見開く。
「?…綾人?」
いきなり立ち止まった綾人の顔を、端留が心配そうに覗き込む。
「悪い、ちょっと先に教室行っててくれ!」
「え?うん、わかった」
綾人は戸惑う端留を横目に走り出した。
その先にいたのは。
「……なんでお前がここにいるんだ!」
「んぐっ!……びっくりしたぁ。ジブン、落とし物といい、これといい、俺のこと大好きすぎるやろ」
息を切らした綾人が見つめる先にいたのは、メロンパンをかじっている陽助だった。流石に服はいつもの和装ではなかったが。
「ちげーよ!その白髪頭が目立つんだよ!」
「ちょっ、白髪やないわ!地毛や地毛!」
「どっちでもいいわ!」
綾人は何故かいつも陽助のペースに乗せられていることに気づく。
「…だから、何でお前がここにいるかって聞いてるんだよ」
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