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第5話
「…だから、何でお前がここにいるかって聞いてるんだよ」
陽助は一瞬の沈黙の後、口を開く。
「…ここのメロンパンが好きなんや」
「はぁ?」
綾人から素っ頓狂な声が出る。
「なんだその理由…」
「まぁえーやろ、俺がどこにいても」
「いや、まぁ…そうだな」
陽助の白い頭を見つけてつい何故か食ってかかってしまった綾人は、陽助のことは気にせず放っておこうと思い直した。
「あっ」
教室へと踵を返そうとしたその直前に、綾人は陽助の口元にメロンパンの砂糖が付いているのを発見した。
「どないした?」
「いや、口に……」
「口?」
「口に……………」
図らずとも陽助の口元を見つめるうちに、初めて会ったあの夜のキスが綾人の脳裏にフラッシュバックし、心臓が一拍
、強く鳴った。
「~~~~~~っ!!なんでもねー!」
「わっ!いきなり何や!?」
顔を真っ赤にさせたまま、急に叫んで駆け足で教室に向かった綾人を、陽助はぽかんとした顔で見送る他なかった。綾人が見えなくなってから、陽助は手元のメロンパンを見つめる。
「……メロンパンは苦しすぎるやろ、俺」
陽助は瞬時に頭が働かなかった自分を反省するようにポツりと呟き、残りのメロンパンを食べ切ると綾人の教室が見えるところに移動するのであった。
・
夜23時半。
綾人は家からギリギリ徒歩圏内くらいのコンビニでバイトをしている。
周りが住宅街であるため、この時間だと客はそんなに多くない。
「ありがとうございましたー」
今会計を終えた客を見送ると、ちょうど店内には誰一人いなくなった。
あと30分で閉店だ、と思った瞬間、店内の空気がわずかに冷えたような気がした。
「……?」
何となくドアの方に目線を遣ると、外は真っ暗だ。夜なのだから外が暗いのは当たり前ではあるのだが、コンビニ内の灯りさえ少しも外に漏れていないような、言葉通りの"真っ暗"。
綾人は看板の照明でも切れたのかな、と不思議に思いながらも外に出る。自動ドアを抜け、外の看板を見上げたその時。
「ひっ…!」
コンビニの屋根よりも高い位置から、大きな目玉がこちらをのぞいていた。
急に暗く感じたのは、大きな黒い塊がコンビニの前を塞いでいたからだったらしい。
(これも、妖か…!?)
綾人は突然のことに恐怖で固まる。
目玉の妖は綾人を視界に捉えると、嬉しそうに目を細めた。
(逃げなきゃ…っ)
しかし、足が動かない。
せめてもと思い目玉を睨みつける。
「………」
「綾人!」
突然、真っ暗だった目の前が、白色に包まれた。
綾人と妖の間に割って入るように参上したのは、またしても陽助だった。
「え、なんで…」
陽助は綾人の問いには答えず一瞥で綾人の無事を確認すると、妖に向き直り素早く印を結ぶ。最後に手を一つ叩くと、あんなに大きかった妖が瞬時に黒い塵に変わり、地面に溶け込んでいった。
「あ、あんなでかかったのに、一瞬で…」
陽助の強さに驚いたものの、それ以上の安堵感に包まれ、綾人の体から力が抜ける。
地面に崩れ落ちそうになったが、その前に陽助が綾人の体を抱き止めた。
「おっと」
次に陽助は、俯いている綾人の顔を、顎を掬い上げるようにして上に向かせ、その顔をじっと見つめる。
「な、なに…?」
イケメンな顔が間近にあり、変にドキドキしてしまう。
「おい…?」
「…………何ともなさそうやな。よかった」
どうやら無事を確認されていたみたいで、ようやく綾人の顎から陽助の手が離れる。
あんなに真剣な陽助を見るのは初めてで、綾人はなんだか照れ臭くなった。
「も、もう大丈夫だから…っ!離して」
「駄目や、本当に落ち着いたら離してやる」
綾人は陽助の胸を押し返そうとするが、陽助はそれを許さない。
「一旦、店ん中入るぞ」
2人は店内へ戻り、陽助は綾人をイートインスペースの椅子に座らせると、店内全てのロールカーテンを閉め切る。元々閉店時間が近かったから、おそらく許されるだろう。
陽助が綾人の隣に腰を下ろし、尋ねる。
「ジブン、年齢いくつや」
「え?じゅ、19…」
「ハタチになるんはいつや」
唐突な質問の意図がわからないまま、陽助の迫力に推し負け、素直に答える綾人。
「来月だけど…」
綾人の答えを聞いた陽助は、大きなため息を吐きながら頭を抱える。
「えっ、何?本当に何?」
「…………綾人」
「うん?」
頭を上げた陽助は、ほんの一瞬、迷うように視線を落としてから、真面目な顔で突拍子もないことを言い放った。
「俺、ジブンと一緒に住んでやる」
「…………ん?住む?
………………………はぁぁぁあ!?」
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