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第6話
「い、一緒に住むって!?」
綾人は陽助の唐突な提案に驚き、混乱している。
「妖はいつ出てくるかわからん。今までは俺が間に合ったからよかったけど、今度こそ命はないかもしれへんで?」
確かに綾人には、この数日で2回も妖に襲われるという不名誉な実績がある。
「そ、そうかもしれないけど…」
偶然だろうと思いたい気持ちと、もしまた同じ目に遭ってしまったら…という気持ちの狭間で心が揺れ動く。
「だけども、俺がそばにおったら、何があっても絶対に綾人を守ったる」
綺麗な赤色の瞳に見つめられ、また綾人の心臓が一際大きく鳴る。
(なんで俺はちょっとコイツにときめいてるんだよ…!)
自分の気持ちとは裏腹に強く鳴り出す心臓を抑えながら考える。
そうだ、俺は怖い思いをしたから頭がおかしくなってるんだ。
綾人はそう自分に言い聞かせて、無理やり冷静さを取り戻した。
「一緒に住むとか………お前はどうして俺にそこまでしてくれるんだ?」
妖から守ってもらえるなんて、綾人にとってはおいしい話だが、そもそも、陽助には何もメリットはないはずだ。
「………」
綾人の問いを聞いた陽助の瞳が、微かに揺れる。言葉を探しているようで沈黙が続く。
数秒経ち、陽助は短く息を吐くと、やっと口を開いた。
「……還妖隊は人間を守るためにあるんや」
「いや、だとしても俺だけが恩恵被りすぎだろって話だよ!」
還妖隊の理念はわかるが、それにしたって綾人ばかりが恩恵を被るような、あまりに贅沢すぎる話である。
「まぁ、ジブン、普通より妖を寄せ付けやすいみたいやから。そう、トクベツや!」
「え、俺寄せ付けやすいの!?……てか、そういえばさっき、なんで俺の年齢聞いたんだよ」
先程は綾人が来月ハタチになると言ったら陽助が一緒に住むと言い出していたのを思い出した。
「昔から、来月ハタチや〜言うとる茶髪のくせ毛で目ん玉くりくりな男子大学生は妖寄せ付けやすいって言い伝えがあんねん」
「あってたまるかそんな言い伝え!
こんな時でもマジですぐふざけやがるんだな、お前!」
何だか上手く話を逸らされたような気もするが、結局綾人は妖への恐怖には勝てず、陽助に同居を頼むことにした。
(ま、友達が泊まりに来るのとさして変わらないもんな)
・
「邪魔すんで〜。おお!綺麗にしとるやん、えらいえらい」
コンビニの閉店作業を終え、綾人は、陽助と一緒に自分の部屋に帰って来た。
陽助は早速、勝手に部屋の中を散策している。
「俺、シャワー浴びてくるからな」
「いってら〜」
あんまり散らかすなよ、などと注意する気力も残っていない綾人は、そのままバスルームに向かい、"無"の状態のままシャワーを浴び終えた。
「次いいぞ。タオルはあるやつテキトーに使ってくれ」
寝そべりながら、テレビを見ている陽助に声をかける。
「はーい」
テレビを消してスタスタとシャワーに向かう陽助を見送ると、綾人は来客用の布団を引っ張り出して陽助の寝床を作っておいた。
「………」
大学生の一人暮らしとなれば、たまに友達が泊まりに来ることも当然ある。
だから急に陽助が住むことにはなったけれど、特に不自由なことはない。けれども。
「……馴染みすぎじゃね?」
陽助も自分の家のように寛いでいたし、綾人自身もそこまで陽助がいることに抵抗感を抱いていなかった。
「あがったで〜」
「おー……………っ!?」
声の方を振り返ると、パンイチ姿の陽助が立っていた。
「お、おまっ、服着ろよ!」
「だって暑いんやもん」
あつ〜と言いながら手で仰ぐ姿をよく見ると、無駄のない身体つきで、服の下に隠れていた輪郭がはっきりとわかる。
「腹減った〜」
こちらは同じ男でも惚れ惚れする身体を前に、目のやり場に困っているというのに、陽助は相変わらずマイペースで、キッチンに行き冷蔵庫を覗いている。
「俺も晩ご飯まだだから、一緒に作ってやるよ。それまでに服着とけ!」
「ほんま!おおきに〜」
ご飯を作ってもらえるとわかるや否や、キッチンから飛び出してテレビの前に寝そべる陽助。
「おい、だから服着ろって…」
「今白虎に運ばせてんねん。届くまでは堪忍してや〜」
「は!?お前、式神をそんなことに使うなよ…」
面倒くさい主人を持った白虎に同情しつつ、綾人は簡単にラーメン作りに取り掛かった。
「おーい、できたから運ぶの手伝え」
「はいはーい!」
テレビを見るのを止めてすぐ駆けつけた陽助は、今度こそきちんと服を来ていたため綾人は内心ほっとした。
「いただきます」
「いただきまーす!………んん〜!うまいなぁ」
手の込んだ料理とは言えないが、うまいうまいと言いながら食べてくれると、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「…ふふ、よかった」
「………」
つい微笑んだ綾人の顔を陽助がラーメンを啜るのも忘れて凝視する。
「……なんだよ」
「なんでもあらへん」
綾人に声をかけられ、ハッとしたようにまた食べるのを再開した陽助だったが、何かを思い出した素振りでまた綾人の方に向き直る。
「あ、明日から大学もついていくからな。もちろんバイト先も」
「…本当にどんな時でも近くにいてくれるんだ」
「妖はいつ出てくるかわからんからなぁ」
「でも、何か大学生っぽくは見えないんだよなぁ、お前何歳なの?」
大学生のフレッシュさがないと言うかなんというか。大学内にいたら、浮きそうではある。
「はぁ〜?こんなハンサムなお兄さんなかなかおらへんやろ!年齢聞いたら絶対驚くで?」
「へぇ。50歳とか?」
「フッ、甘いな。300歳や」
「うんうん、若く見えるねー」
「テキトーすぎやろがい!」
300歳と聞いた瞬間、興味が無くなったかのようにラーメンに向き合い始めた綾人に陽助がすかさずツッコんだ。
「いや、300歳とか誰が信じるんだよ。嘘下手か!ちなみに本当は?」
「……25や」
「あー」
「何やその反応!」
「まぁ、そんなもんかって感じ」
「……………正しくは、"身体は"25で止まってるやけど」
「ん?何?」
「なーんも」
何か聞こえた気がしたが、綾人は特に気に留めなかった。
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