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第7話
「ん………」
スマホのアラームが鳴り、綾人は目を覚ます。
朝ごはんの用意でもしようとベッドから起き上がると、床に寝ていた人が目に入った。
「うぉっ!!!!」
陽助がいるのをすっかり忘れており、危うく顔を踏んでしまうところだった。
「ん、朝か…」
布団から顔を出して陽助も起き上がる。
「お、おはよ」
「おはよぉ、何時?」
「7時だけど」
「はや!綾人はえらいな〜」
寝ぼけているのか、陽助は欠伸をしながら綾人の頭をポンポンと撫でた。
「っ!?」
突然のことに固まった綾人を特に気にするでもなく、陽助は顔を洗いに部屋を出て行ってしまった。
「な、なんなんだよ…」
しばらく呆然と陽助が去っていた方を見つめていたが、赤くなった顔のままで、綾人も朝の支度を始めるのだった。
・
一緒に朝ご飯を食べ、一緒に大学へ向かう2人。
最寄りの駅まで喋りながら歩く。青すぎる空と眩しすぎる太陽が夏本番を告げている。
「お前、俺が講義受けてるときどうすんの?まさか、教室入ったりはしないよな?」
「そやな〜、まぁ近くにはおるようにするからそないな寂しそうな顔で見つめんといてくれ………そうや!」
綾人の「してねーよ!」というツッコミはスルーしつつ、陽助はポケットに手を突っ込んで何かを探し始める。
ちなみに和服は目立つので、もう洋服に着替えてもらっている。
「あったあった。これ、絶対無くさずもってろよ」
「何これ?」
陽助から手渡されたのは、人のような形に切られた、手のひらくらいの白い紙だった。
「俺が遠くにいるときのための身代わりや。ソイツ握って強く念じれば俺が気づくから、すぐ駆けつけるで」
「これも秘術か?すげー!!」
綾人は興味津々で人形(ひとがた)を日に透かしてみたり裏返したりしてみる。こんなペラペラの紙にそんな力があるなんて、と舌を巻いた。
「えっへん。ちなみに少しなら妖除けの効果もあるで。強い奴には効かへんけど」
「妖に強いとか弱いとかあんの?」
綾人が遭遇した2体は、どちらとも同様に"黒いもやもやしたモノ"だったため、強さの優劣ははっきり言ってわからない。
「綾人を襲ってきた奴らは、どっちも同レベルでザコや」
「え!?デカかったコンビニの奴のほうが強いかと思った…」
「サイズは関係あらへんな。強い奴は妖術も使えるし、知能も人間並みや」
陽助から聞いた話に、綾人は背筋がゾッとするのを感じた。
「あの黒モヤでも十分怖かったのに…」
「まずモヤってて原型を留められていない時点で力が弱い証や」
「なるほど…?とにかく、陽助がいてくれて本当によかったわ〜」
「…!」
ニコりと笑いかけると陽助がすぐ顔を逸らされたが、そんなことも気にならないくらい、綾人は、心臓の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
・
大学でもバイト先でも、その姿は見えなかったものの陽助は近くから見守ってくれていたそうで、今日1日は何も悪いことは起きなかった。
「いやー、妖出てこなくてよかったな〜」
2人で自宅のテーブルを囲んで夕食を食べながら、綾人はニコニコしている。
「…まぁな。俺に感謝せえよ?」
「マジでありがとう!」
「お、おぉ、素直やな」
綾人のデレに一瞬たじろぐ陽助。
そんなことは気にせずご飯を食べ進める綾人。
2人の同居初日は、何事もなく終了した。
・
綾人はご飯を食べ終えると上機嫌のままバスルームへ向かった。綾人が風呂場に入ったのを確認すると、陽助はすぐに袂から紙の人形を取り出した。
「………神榊さん」
『陽助。どうだ、そっちは』
目を閉じて人形に念を込めると、人形が燃えるように光り、そこから神榊の声が聞こえる。
『わざわざこうして連絡とってくるってことは、重大案件か?』
人形を使って陽助の秘術で通信すると、お互いの脳内で直接会話ができるため、外部に話が漏れることはない。
「ああ。アイツは厄養でほぼ確定や」
『…やはりか』
脳内にも、神榊のため息が聞こえてくる。
「昨日もえらいデカい妖が現れたし、今日も1日中監視しとったけど、ちょこまかしたのが吸い寄せられるように近づいてってたわ」
『20歳になる日まで、もう1ヶ月を切ってるんだ。当たり前といえば当たり前かもしれないが…』
「まぁ、綾人自身は今日の妖には気づいてなさそうやったけどな」
『この1ヶ月弱で、綾人くんには理解してもらわなければならない。………厄養がこの世界に存在する危険さを』
「…………まぁ、言うてもまだ1日目やし。寄ってくる妖も、俺がちゃんと対応できる範囲やし。まだ焦らんといてくれや」
『先延ばしすることの危険性も考えなければいけないぞ』
「わかっとるって。…綾人が風呂から出てきそうやから切るで」
『…まったく』
陽助が目を開けて念を込めるのを止めると、人形からも光が消え、ただの紙に戻った。
「ふぅ………」
陽助はリビングの床に身を投げ出すと、ただ黙って天井を見つめる。
「…俺は何をこんなに迷ってるんや」
ポツリと口から溢れた独り言には答えが返ってこなかった代わりに、脳内には昼間の綾人の笑顔が浮かんだのだった。
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