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第16話
300年という時間
「綾人の誕生日まで、あと1週間くらいやなぁ」
夜、一緒にご飯を食べているとポツリと陽助が呟いた。
陽助の目線を追うと、テレビで「今日は何の日?」的なクイズで今日の日付が映し出されていた。
「今月ももうこんなに経ったんだなぁ。まじで、年齢重ねると月日が短く感じるのって何でなんだろうな」
「…………俺は、果てしなく遅く流れる時間に嫌になるけどな」
「暇人だからじゃね?」
「お前…。何回でも言うたるけど、俺は還妖隊ナンバー2やで?凄腕の売れっ子や」
「へーへー」
「コイツ、またテキトーに流しよって〜!」
陽助が、テーブルの下で足を絡めてくる。
「ひゃっ!びっくりさせんなよ!」
「ひゃって、綾人かーわい〜」
「うっせー!」
顔を真っ赤にしながら怒る綾人を揶揄う陽助。
「お行儀悪いで、まず食べや」
「お前から始めたんだろ!…ったく」
ぶつくさ言いながら食事を口に運び続ける綾人を優しい眼差しで見つめる陽助。
「………せや、またお仕事入ってな。明日せっかく綾人は休みやのに…」
「最近妖の出現明らかに増えてね?」
「……まぁな。そして、今回はいつもみたくすぐ帰ってこられそうにないんや」
陽助の言葉で一瞬綾人はピタリと動きを止め、ゆっくり陽助を見上げる。
「俺の仲間に来てもらうよう頼んである。……せやから、そないな不安そうな顔せんでも大丈夫や」
不安げな綾人の頭を撫でる陽助の手に、綾人は安心感を取り戻す。
「…危ない仕事なのかよ」
「いや?ただ場所がこっから遠くてすぐ帰ってこられへんだけ」
「そうか」
綾人は食べる手を再開する。
「……お前の仲間だって忙しいだろうに、俺だけのために申し訳ないな」
「お前、さっき俺のことは暇や言うておいてそんな気遣いできんのかい!」
「いや……お前は俺の護衛が仕事なのかもしれないけど、俺はお前の恋人なんだから苦ではないだろ」
「………!」
ナチュラルに惚気る綾人に陽助は驚きによって一瞬フリーズする。
綾人はそんな陽助の様子を見て、なんだ?と思いつつも、後になって自分が言ったことを思い返して恥ずかしさが一気に降りかかってきた。
「〜っ!!うそ!!!今のなし!!!」
「お前、ほんと、無自覚で可愛いの心臓に悪いわ………」
陽助が深くため息を吐いて立ち上がり、ゆらりと綾人に近づく。
「忘れろ!!」
「無理♡そやなぁ、お前は俺の恋人やもんな?」
「だああああ!」
陽助は綾人を後ろから抱きしめるように座り、頭をぐりぐりと押し付ける。
「はぁ……。好き」
「………忘れろ」
「無理やって。あ〜、明日離れ離れとか嫌や〜!」
陽助が綾人の髪に何度もキスを落とす。
綾人はこの恥ずかしさから抜け出そうと、話題を逸らすために必死で頭を回転させる。
「そ、そういや、明日来てくれる仲間ってどんな人?」
陽助がキスの雨をピタリと止ませ、考える素振りを見せる。
「うーーん、一言で言うと、俺の一番の理解者、ってとこやろか」
「へー、陽助の交友関係聞くのって初めてだな」
考えてみたら、陽助の知り合いは神榊しか知らない。
「そういやそうやな」
「仲間って何人くらいいんの?」
「俺らの隊では神榊さんと明日来るヤツの他に後2人おるな」
「…今までの恋人とかは?何人くらい?」
その質問を聞いた瞬間、陽助の脳裏に浮かんだのは、ある一人の人間。だが、陽助は頭の中からその記憶を追い出す。
「………忘れた」
「は?お前さては遊び人だったな?まだ25歳で歴代の恋人覚えてないとかやばいだろ」
陽助は、綾人を抱きしめる手を強め、真剣な声音で語り出す。
「…綾人。お前、俺が300歳って言ったことあったの、覚えとる?」
「はっ、まだそんな冗談…」
「実は、冗談やないんや」
「え?でも、300歳なんてあり得な…」
「あり得るんや。還妖隊は適性のある奴しか入隊できないんやけど、適性を持つ奴は滅多に現れない。せやから適性持ってる奴を不老にして、戦わせる」
「なっ…!」
綾人は驚いて陽助の方を振り返る。陽助は、儚げな、憂げな表情を浮かべていた。
「不老言うても、身体能力が上がって身体が多少丈夫にはなるだけで、不死ではないんやで」
「そんなこと…」
綾人は先程の陽助の『果てしなく遅く流れる時間に嫌になる』という言葉を思い出した。あれは、300年生きていたからこそ出た言葉だったのだ。
「俺はお前に会ったときから惹かれてたし、今こうやって想いが結ばれてるんはほんまに幸せや」
「…うん」
「だからこそ、こないな大事なこと隠さんと話さなきゃ思うて」
「うん」
「…怖いやろ」
「いや……怖いって言うか…びっくりだよ」
「そうか」
「不老って、300年って…。お前は人間守るために永遠の時を過ごす覚悟をしたのか…?」
「まあ、せやな」
綾人はくるりと振り向き、陽助を強く抱き締めた。綾人の腕が震えているのがわかる。それでも、抱き締める力は強かった。
「っ!?綾人?」
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