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第9話
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亮太と出かける日になった。
マンションの隣同士だけど、なぜだか駅で待ち合わせしようと亮太に提案された。
前日の朝、スマホにメッセージが届いた。
『前に言った、出掛ける話、明日でどう?』
朝からそんなメッセージを見て、学校行ってからもずっと上の空だった。
返事は、オッケーしたが、着ていく服、髪型、どうしよう。大丈夫かな。とずっとそんなことを考えていた。
結局、前日でどうにかなるものでもなく、いつもの洋服、いつもの髪型になってしまった。
日曜日、昼前。初夏のムッとする暑さと、真っ青な空が今日の一日の晴れを教えてくれている。
指定された場所の大きなモニュメントの前には、待ち合わせなのか、沢山の人がいる。
まるでデートみたいで、ドキドキする。
だけど、すぐに何を舞い上がってんだと落ち込む。
指定された場所で待っていると、キラキラした男の子がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
亮太だ。
周りの女子がヒソヒソと話す言葉が聞こえてくる。
「あれって、キョウヤ?」
「違うわよ」
「でも似てるよね」
「かわいい」
たしかに、亮太だ。洗練された格好に芸能人のような雰囲気が重なり、息をのむ。
「サト、ごめん。待たせた」
いつもの微笑みなのに、なにか違う。
「髪型、変えた?」
サトの指摘に、亮太が頭を掻きながら答える。
「美容室で、キョウヤの写真見せてやってもらったんだ」
サイドを短めにカットして、分け目を変えたスタイリングは、あの雑誌に出ていたキョウヤと同じだった。
黙っているサトに不安そうな顔を向ける亮太の視線が目にはいった。
「あ、ごめん。びっくりして」
「変か? サトがキョウヤ推しっていうからさ……なんか、やってみた」
照れながら言う亮太の顔にキュンとする。
「似ていて、びっくりした」
そう言ったが、本当は、亮太がかっこよすぎた。
学校で見る彼と違い、洗練された雰囲気に見惚れていた。
少し、髪型を変えただけなのに、こんなに大人びた雰囲気を纏うようになった亮太がまぶしい。
こんな僕が亮太の隣を歩いてもいいのか。
周りの視線と、自分の気持ちが混合して落ち着かない。
「サト、俺、変? この髪型合ってない?」
周りからの視線に戸惑っているのか、そんなことを聞いてくる。
「りょ、りょうちゃんが、かっこいいからだよ」
「暁士……、りょ・う・た・だよ」
目を見つめられて言われる。
心臓の音が、聞こえちゃうんじゃないかと思うほど、僕はドキドキが止まらなかった。
待ち合わせ場所から数分の場所にあるアート専門の商業ビルに入る。
この中に、画材、版画、彫刻、などそれにまつわる専門店や小さなギャラリーが入っている。
よく行く画材店に入り、自分の得意分野に囲まれて、少し落ち着きを取り戻していた。
絵具のコーナーに向かう。
絵具にも沢山の種類があるが、サトは水彩画を描くので、その絵具を見ながらチラチラと亮太を見ていた。
亮太は、懐かしそうにお店の装飾に目を向けていた。
小さい頃は、親に連れて来てもらって、よく来ていたが……何年ぶりだろうか。
「八年ぶりくらいな」
そう、言われて、心が読まれたのかと心臓が跳ねる。
「そのくらいかもね」
隣に来た亮太が、サトが持っているチューブ入りの絵具を見て、「たくさんだな」と呟いた。
「そういえば、サトって、まだ色見えてるの?」
「……っ!」
突然そんなことを聞かれて目を丸くしたサトを微笑みながら見ている。
「覚えてたの?」
「色が見える。って、小さい頃言ってたよな。たしか、俺は金色だったっけ?」
小さい頃と同じ屈託のないままの笑顔で問われて、あの頃を思い出す。
――サト、おれ金色なの?。えー、なんかカッケー。
飛び上がりながら言ってくれた言葉を思い出す。
恥ずかしくなって、顔を下に向けたまま、こくりと頷いた。
「金色。すごくかっこいいよ」
小さく呟いた声に、満足気な顔をした亮太は、「俺が買ってやる」と買い物かごをサトから取り上げた。
その姿が、小さい頃に何かとかっこつけたがる強がり亮太のままで、思わず吹き出してしまった。
「なんだよ。笑うなよ」
「ごめん。でも、絵具……高いよ」
「え……」
結局、絵具はサトが自分で買った。
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