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第12話

 今日は、部活が休み。絵画教室がある日。  一旦、家に帰り、軽食を食べて準備をする。  絵画教室までは、電車で行く。  賑やかな街中を通り抜けて、市役所関連の建物が立ち並ぶビルの中にある。 「こんにちは」  挨拶してはいると、ここの教室の先生、松岡小百合がテーブルを出して準備をしていた。  サトに気付くと、にっこり微笑み「こんにちは」と返してくれる。  小百合は、土日の子供教室と平日夜の教室を担当している。サトが幼少期の頃は日曜日の教室に通っていた。   「手伝います」  生徒は、まだサトしか来ていなかった。  端に置かれているテーブルや椅子を運ぶ。  絵画教室の生徒は、全部で十人。  一番若いのが、サト。後は、二十代から七十代まで幅広い。  本格的に学ぶというより、趣味で楽しむ人がほとんどだが、時折開催される二科展などに応募する人もいる。 「サトくん、どう? 最近は?」  絵画教室は、2週間に一度。  最近といっても、何も変わったことはない。  おそらく『色』のことを聞いてくれているのだろう。  小さい頃に、それが悩みで絵を習い始めたようなものだ。 「落ち着いてます。人の色は、絵具で表せない。難しいけど面白です」 「そうね、サトくんがもっている能力を活かすのは、絵具だけではないかもしれないわね」 「……?」 「最近のサトくんの絵は、色がなくても色がみえる。それくらい人の表情の描き方、景色の陰影が上手になっていると思うのよ」 「……!」  嬉しい。  小さい頃から、絵はさほど上手ではなかったが、色の使い方だけは褒められていた。  最近は、鉛筆だけで描く練習をしていたからか。  細かい描写を褒められて嬉しくなった。  ――こんにちは。  クラスの人たちが、ぞくぞくと教室に入ってきて賑やかになる。 「今日は、肖像画です」  先生が声を上げる。  二十代と思われる男性モデルが入ってくる。  こういうバイトがあるらしく、時々、均整のとれた体躯の人物を描くことがある。  キャメル色のパンツに、白色のシャツ姿、上から2つ目までボタンを外している。  髪の毛は、肩まで長く、口ひげがある。  整った見た目で、生徒の女性陣からため息が漏れていた。  モデルが椅子に座る。  皆、好きな角度から描くように位置を考えていた。  モデルの綺麗な顔立ちは、英康おじさんを思い出させた。  でも、色は濃紺で寒々としていて、冷たい印象があった。  スケッチに冷淡な男性像が仕上がっていく。  モデルの瞳はビー玉のように綺麗で、どこか寂し気で、空虚な感じがした。  描いていて、これほどつまらないものはなかった。 (――亮太を描きたい)  小さい頃からずっと変わらない。  亮太を描きたい。亮太を見つめたい。  見つめられたい。  湧き出た感情に蓋をする。  好きだと思う気持ちは、どこかで止めなければならない。  そう思えば思うほど、溢れてしまって苦しい。 「はぁー」  思わず、大きく出てしまった溜息に、皆がサトを見る。  ぷっと誰かの吹き出した声で、次から次へと笑いが起こる。 「サトくん、大丈夫か?」 「高校生は勉強も忙しいから」 「疲れている?」 「そろそろ夏休みだし、がんばって」  などと生徒の大人から次々と声が上がった。 「す、すみません」  頭を下げて、顔を赤くしながら、鉛筆を走らせた。  そうだ。あと一週間で夏休みだ。

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