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第13話
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亮太は、選手に選ばれたようで部活動で毎日朝早く、帰りも遅い。
夏休みにはいって、ほぼ毎日、部活動に明け暮れている感じだ。
サトの家に夕飯を食べに来ても、よほど疲れているのか、食べるだけ食べてすぐに家に帰って行った。
二十人近くいる一年生の中で選手として選ばれたのは、亮太と他二人。
選手だからと特別扱いはされず、一年生としての雑用もこなしている。
そして、練習量も増えているのだから、毎日疲れているのは当然のはずだ。
夏休みは、美術部の主だった活動はない。
しかし、先生は学校に来ているし、部室も開いているので、何人かの部員が来て作業している。
特に、彫刻や陶芸は材料が学校に揃っているし、先生自ら制作していることもあって、その専攻の部員が来て先生の手伝いをしていた。
サトも絵を描くだけだが、学校へは毎日行っていた。
理由は、亮太がいるから。
校庭で練習に励む姿を見て、スケッチしている。
朝行って、昼前には帰ってくる。
時々、午後にも学校へ行くこともあるが、周りから変な目でみられないように別の場所でスケッチしたり、図書室に行ったりしていた。
今日は、京香から、祥の練習風景をスケッチするからと誘われていた。
堂々と校庭でスケッチできる彼女が羨ましい。
一足先に京香との待ち合わせ場所へ向かう。
走り高跳びの練習が見える場所は、ちょうどよい木陰になっていていた。
午前中とはいえ、夏真っ盛りの外は暑い。簡易椅子を置いて座る。
京香もやってきた。
その姿に気付いた祥が駆け寄ってきた。
京香もそれに応えている。
楽しそうに話す二人は、周りの目を気にすることなく、手を握り合ったりしている。
二人の色が溶け合って、とても仲睦まじい雰囲気が見えた。
京香が戻ってきて、スケッチの準備をする。
「仲が良いんですね」
サトは、ぼそりと呟くと、少し照れたように「そうね」と京香はそれだけ言った。
「告白したんですよね? それって、その返事ってもらったんですか? 二人は付き合っているんですか?」
突拍子もない質問に京香は目を丸くして、サトを凝視している。
(しまった。変なこと聞いた)
「付き合っているわけじゃないけど、良い関係性だと思っているわ。彼女、私の絵を好きだと言ってくれてるし。私も祥の飛ぶ姿が好き」
そう言うと、祥の方を向いて手を振っている。
「その、サトくんの質問は、恋愛的にということなのかしら?」
京香の質問に生唾を飲み込むしかなかった。
サトの返事を待つわけでもなく、「わからない」と彼女は小さく独り言のように呟いた。
それから、僕たちは、黙って鉛筆を動かした。
セミの鳴き声だけが響いていた。
スケッチが終わり、帰る準備をする。
京香はずっと黙ったままだ。
「京香先輩。すみません。さっき変なこと聞いちゃって」
「……変なことじゃないわ。サトくんの質問、変なことないわ」
京香はいつになく真面目な顔だ。
「好きって、わからない。いろんな意味があるものね。 でも、今は……このままがいい」
京香の朱色に近い鮮やかさが、少し濁って見えた。
悩み、不安という感情は、忙しなく揺れ動く。色も同じだ。
「わかります……」
そう答えたサトの声はすごく小さくて、京香に聞こえているかどうかわからなかった。
校庭では、野球部の練習が始まっていた。
今日は、サッカー部は休みらしく、サッカー部のエリアまで野球部の練習になっていた。
サッカー部がいないのに、亮太の姿を探してしまう。
大きな溜息を吐いて、学校を後にした。
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