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第19話
部室で絵が描けたわけではなかった。
部長からもらったテーマを書く用紙と真っ新なキャンパスを部屋に置いて、そのままベッドに倒れこんだ。
なんだか頭が痛い。身体もだるい。いつの間にか眠っていた。
そのまま朝を迎えた。
母親の呼びかけに目を覚ます。
「あらら、熱あるわね。今日は学校やすみなさい。 お母さん仕事に行ってくるから、冷蔵庫に色々入ってるからね。ちゃんと食べるのよ」
……風邪か。
昨日よりは頭の痛さはない。今は喉が痛い。
起き上がって、冷蔵庫から水を飲む。
お腹が空かないので、その水だけ持って、部屋に籠った。
ベッドに転がり込んで、目を閉じる。
よくドラマやアニメでは、失恋した主人公が、「死にたいとか、何もいらないとか」そんなことを言う気持ちが少しわかった。
熱のせいなのかな。
このまま死んでしまったらいいのにな。とか、こんな世界なくなればいいとか……普段だったらアホだろうという考えが浮かぶ。
どうして僕は男なんだろう。どうして亮太が好きなんだろう。亮太はなぜ彼女を選んだのだろう。
僕は、幼馴染で友達なだけだ。
見ているだけで良いと思ってたのに……本当は見られたい。触りたい。触られたい。
欲望の塊だ。嫌になる。
喉が痛くて、頭も痛くなってきた。
また眠りに落ちていった。
気が付いた時は、昼すぎで、カーテンを閉めた薄暗い部屋の中でスマホの明かりがメールの知らせを告げていた。
亮太からだった。
『風邪ひいたって? 帰りになにか買っていくから欲しいものあればメール入れといて』
欲しいもの。それは、亮太だよ。亮太だけ。
そんな気持ちに蓋をして、起き上がる。
頭の痛さは無くなっていた。少し喉が痛い。
そして、お腹が空いていた。
ははっと自嘲的に笑う。何が死にたいだよ。腹が減って起きるなんて……。
冷凍食品を温めて食べる。
昨日は風呂も入らずに寝てしまった。汗をかいて気持ち悪くなった身体をシャワーで洗い流した。
風呂上り、洗面所の鏡をみて驚いた。
なんて、僕は酷い顔をしているのだろう。
僕は、今まで自分の色は見えたことがなかった。
今鏡に映る僕の色は、汚らしい。なんとも言えない濁った色が幾重にも折り重なって、目も鼻も見えなくなるくらいそれが覆っている……気持ち悪い。
――僕は、こんなに醜いのか。
好きな人を見つめる人の色は淡く美しい色が見える。
亮太の彼女もそうだった。
こんな僕が見つめちゃ駄目だ。金色の輝きをもつ亮太を汚してしまう。
部屋に籠り、今鏡でみた自分の絵を描いた。
何枚も、殴る様に描き続けた。
部屋の鍵を閉めたまま、ずっと絵と向き合っていた。
母親も帰ってきていて、部屋をノックしてくれたらしいが、全く聞こえなかった。
しばらくして、部屋のノックがして、亮太の声がした。
「サト、大丈夫? 俺のメールみた? 寝てる?」
その声で我に返り、絵を描いていたことと、日が暮れていることに気付いた。
部屋のドアを開けると、亮太が心配そうな顔をしていた。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「そうか、プリン買ってきたから、おばさんに渡しといたよ」
「亮太、サッカーユニフォームのレプリカは、買った?」
急な質問に、亮太の目が泳いだ。
慌てている。
「ああ、うん。友達と買いに行った」
「友達?」
「そうだよ。ごめんな。一緒に買い物行こうって言ってたのに」
「いいよ。僕なんかと居ない方がいい」
その言葉にムッとした亮太の手が、サトの肩を揺らす。
「なんで? なんで、そんなこと言うんだ」
「言葉通りだよ。僕は亮太のそばに居ないほうがいい」
「は? 俺の試合見に来て、絵を描いてって言ったよな?」
亮太が怒っている。
なんで? なんで、そんなに必死になるの?
「今、展覧会に出す絵を描いていて忙しい。試合も見に行かない」
怒った顔から、サッと血の気が引いていくような青い顔になった亮太を見つめる。
「ごめんね」小さく呟いてドアを閉めた。
「サト、風邪が治ったら、試合見に来て」
部屋から離れていく足音と、玄関の締まる音で、一気に力が抜けて、座り込む。
膝を抱え込み、額を膝につけたまま、しばらく動けなかった。
涙だけが止まらなかった。
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