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第39話

 小学二年生に上がる頃には、サトがいじられて泣くようなことは無くなっていたし、色に対しての耐性がついたのか見えているものと上手に付き合い始めていたようだった。  その頃のサトは、絵を描いている時はとても集中していて近寄りがたかった。  段々と付き合う友達も変わってきて、その頃仲良くなった奴に誘われてサッカーを始めたんだ。  サッカーは楽しかった。    絵画教室を止めると言った時、サトは凄く悲しい顔をしていた。  でも、俺は少し距離ができてホッとしていた。  サトの絵に対する集中は、自分には出来ないものだったし、どんどん上手になる彼に嫉妬もした。  同じ時期に始めたのに差がつくこと。  サトにかっこ悪いところを見られたくなかった。  いつまでも羨望の眼差しで俺を見ていてもらいたかった。  俺が、絵画教室を止める日、サトを描いた。  正直、どんな絵になったかなんて覚えていない。  家のどこかに隠すようにしまった。  恥ずかしかったからか、何かの恐れか、わからないけど。  あまり良い仕上がりじゃなかったはずだ。    ――75番。  受付の電光掲示板に自分番号が表示され、窓口に向かう。  会計を済ませて、出て行こうとしたときに声を掛けられた。  振り向くと、絵画教室の松岡小百合先生が立っていた。  病院を出たすぐ隣にある喫茶店へ入った。 「亮太くん、ひさしぶりね」 「はい。久しぶりです」  先生の変わらない口ぶりに、不思議な安堵感を覚える。 「ケガでもしたの?」  亮太の足から見えるネット包帯を見て問われる。 「サッカーの試合で、転んで……でも、もう治ってます」  足首を回して見せる。 「先生は?」 「ああ、実はね、妊娠したのよ」  少し頬を染めて、照れたような表情をした小百合は母の顔をしていた。  鞄にマタニティマークのキーホルダーがぶら下がっていた。 「お、おめでとうございます!」 「ありがとう。でも、まあ、私もう40歳過ぎているのよね。ちょっと持病も持っているから、医者には慎重にって言われていてね……」 「……」 「ずっと子供が欲しかったから、嬉しくて。でも、まだわからないでしょ。ちゃんと生まれてきてくれるまではわからない」 「俺に何かできること、何か手伝うことがあれば言ってください」  何か考え事をしたあと、「……じゃあ、今度、絵のモデルをしてくれない?」と言われる。  力仕事とか水仕事を期待していたのに拍子抜けした。 「モデル……ですか?」  小百合は満面の笑みで、頷いた。  

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