40 / 46

第40話

 窓ガラスがカタッと揺れる。外をみると、風が落ち葉を巻き上げていた。 「サト君の選ばれた絵『空っぽ』見た?」  その質問にただ頷いた。 「どう思った?」  外の渦巻く風が自分の心にも吹く。  なんて答えたらいいか迷う。  しばらく沈黙のまま、小百合は回答を待ってくれている。 「好きじゃない……です」  それだけを言うのが精一杯だった。 「私も最初見た時、驚いた。サト君自身も戸惑ているみたい……。彼、絵が描けなくなっているの」 「――――」  衝撃だった。  学校で描いている姿を見ていなかったけど、まさか描けなくなっているなんて思いもしなかった。 「でも、本人は描きたいと思っているのよ。ただ……気持ちと行動が伴わなくなっているみたい」  声が出なかった。  サトが絵を描けなくなるなんてことあり得ない。 「俺があの絵を好きじゃないって言ったから? そうなのかな?」  小百合は首ふった。 「違うと思う。何か彼にとってショックなことがあったのだと思う。だけど、それを乗り越えようとしている。私は見守るしかないと思っているわ」 「……」 「私には話してくれなかったから、亮太くんになら、話してくれるかしらね」  小百合は寂しそうに視線を落とした。  ショックなことってなんだよ。  なにがあったんだ。  俺が聞いて、答えてくれるのか?  ふと、サトの寂しげな空っぽの瞳を思い出した。  見つめて欲しいと願っているのに、あの瞳には何もうつっていないのかもしれない。    家に帰って、部屋のクローゼット奥にしまい込んだ、絵画教室の思い出を引っ張り出した。  ――嫌なことを思い出させる。  確認してみたくなった。俺の絵を。  アルバムや、アルバムに入りきれていない写真に混じって、スケッチブックが出てきた。  そこに、絵画教室最終日に描いたサトの肖像画が挟まっている。  すごく下手で、笑えるが、その絵の瞳は、どこかで見たことがあるものだった。  寂しい、怒り、悲しみ……。 (そうだ思い出した。この絵は、サトの目に映る自分自身を描いたものだ)  彼みたく上手に描けない。かっこ悪い。誰にも見られたくない。  確か、そんな風に書いた気がする。  ――嫉妬?  リビングに行って、市から配布されている小冊子を手に取る。  確かサトの絵が載っていたはず。 『空っぽ』それと、自分が書いた絵を見比べた。  似ているとかじゃない。似ているわけない。サトの絵の方が上手だ。当たり前だ。  でも、このうつろな瞳は、同じ感情だったのではないかと思えてならなかった。  

ともだちにシェアしよう!