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第45話

 サトは、家に帰ってからスケッチブックを広げた。  キッチンにいる母を描いてみようと思ったのだ。  途中までは、好調に鉛筆が走ってくれる。  だけど、頭の中に亮太が出てきて、動きが止まってしまう。  そこにいるのは、母親なのに。  持っている手が震えている。 (もう、ホントに描けないのかな)  不安が過ぎった。  ふと、昔よく行っていた場所に行こうと思い立った。 「母さん、ちょっと出掛けてくる」    家の近くにある公園兼多目的グラウンドだ。  亮太は、小学生の頃、そこでサッカーをしていた。  暗くなるまで。  そこのベンチに座って、よくスケッチしていた。  すっかり秋になった夕方は、日も暮れるのが早い。  公園に電灯が付いていた。  上着のチャックを首の上まで上げて、薄明かりの下にあるベンチに腰を下ろした。  誰もいないグラウンドが目の前にある。  スケッチブックを広げて、鉛筆を持つ。  目を瞑った。    絵画教室をやめて、サッカーに夢中になった子を思い浮かべる。  走って、ボールを蹴って「サト今の見てた?」と時折声をかける。  それを受けて、ニコリと笑うと、手を振ってくれる。  そして、スラスラと鉛筆を走らせる。    ――だけど、今の僕の手は動かない。  ため息がこぼれた。   「サト」  急に呼ばれて、驚いて目を開けた。  声の主は、亮太だった。  ハアハアと息をきらし、額の汗を袖で拭う。 「なんで?」 「なにしてるの?」  二人同時に発した言葉に、気まずい沈黙が流れる。  

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