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第5話 二人を守るためなら

「エリファレオ兄さん」 「悪いが、私は忙しい。またあとにしてもらえないか?」 今度は弟として引き取られたジェレミーに、私は一切、優しくしなかった。 喘息気味だった彼に吸引器を持っていかせたり、彼の実母が好きだった花を飾らせたりなど使用人に指示はしたが、自分が動いて彼に何かをすることはやめた。 そして彼の前ではことさら、邪魔者扱いをしたり、意地の悪いことを言ったり、嫌いな素振りを見せた。 「お前なんか、公爵家にふさわしくない」 「お父様やお母様に認められたからと言って、いい気になるなよ」 「魔力があるからと言って、偉そうに」 本音としてはジェレミーに跡を継いでもらう気満々なのだが、回帰前のように私に懐かないよう、ひたすら敬遠した。 ジェレミーからもらったプレゼントはあとでこっそり拾って直したり飾ったりしたが、とりあえず目の前では捨てたし、踏みつけた。 やがて彼が私に声をかける回数が減り、心からホッとした。 私の癒しだったジェレミーの顔が翳っているところを見るのは辛いが、それでもジェレミーの未来には代えられない。 可愛いジェレミーの命を守れるのであれば、私は喜んで悪役に徹することにした。 アカデミーには二人して貴族枠で入ったが、私はもともと興味のあった魔術具を専攻することにした。 魔力がなくなったから、選べた道だ。 アダルバードは剣術を、ジェレミーは魔法師の道を選び、私と二人の接点は貴族枠ということしかなかった。 ただ、ジェレミーが貴族枠で入学したことでアダルバードとの接点ができたらしく、二人が一緒に行動しているところは何回か見かけた。 「エリファレオ」 気難しかったはずのアダルバードは、回帰前より私に気楽に話しかけてくることが多くなった。 恐らく、筆記は主席であっても、私が魔力を保持していないからだろう。 私と比べて、彼がどうこう言われることはなくなったからだ。 「アダルバード王子殿下、何か御用でしょうか?」 以前の親友を前に、私は従者のように頭を下げる。 アカデミー内では基本的に敬称は不要だが、私は親しく呼び捨てにしていたのを改めた。 アダルバードは、こうした媚びへつらうような同世代貴族が大嫌いだ。 「いや、お前と少し話がしたいだけだ。公爵家との交流は大事だからな」 「それでしたら、ジェレミーと話せばいいと思いますよ」 そして失礼のない程度に距離を置いて、誘いは全て突っぱねた。 ジェレミーに丸投げした、と言ってもいい。 王子として施策などで悩み、学年主席なのだから相談に乗って欲しい、と言われた時は仕方なく進言することもあったが、一緒に参加しなくてもよいイベントやクラブなどの誘いは全て断った。 回帰前は、大笑いするアダルバード横で笑っていたのも、彼と肩を組んでいたのも、私だった。 アダルバードと一緒に過ごしたアカデミーでの楽しい日々を思い出すと、苦しくなる時もある。 それでも、アダルバードが立派な王となる未来には、代えられない。 男の私ではなく、彼が心から安らげるような令嬢と結婚して、世継ぎを儲けるべきなのだ。 自分には、回帰前の思い出だけで十分だ。 アダルバードの命や未来を守るためにも、私は喜んで悪役に徹することにした。

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