6 / 21

第6話

  『エレモアシティー上部駅に残り五分三十秒で到着致します。』    機械的なアナウンスは、船を漕いでいたノエルの意識を引き戻した。   「ありがとう、少し急いでいるんだ。早めに頼む」    スキープカーのナビにそう告げると、スピードのメーターがぐんぐんと上昇する。それを片目で確認して再び座席に背中を埋めると、真上の空の青さに心の空白を自覚させられる。   (昔は晴れの日は好きだったのに)と感傷的になるのは二時間も狭い空間に座りっぱなしだからだろう。    窓から見えるその巨大円盤のシールドは、毎日の電力を賄う為大量のソーラーパネルが設置されている。外から中は覗けない、それは色々な物を隠したい政治家たちには都合が良い。   (…しかし、この情報を鵜呑みにしていいものか)    ノエルは与えられた情報を自分の頭の中で簡単に整理した。   ある娼婦の常連客が偶然王国打倒委員会のメンバーで、偶然不死身の男を拘束する場面に立ち会い、偶然不死身であると知った。そしてその情報を偶然リク・サコダが入手した。     サコダの集めた情報を嘘だとは言わないが、ノエルはその"偶然"に納得がいっていない。普段仕事の出来ない同僚に嫉妬した、という感情も含まれているだろうが。      スキープカーがトンネルに侵入すると、青空は満天の夜空に切り替わり、その極彩色が前後左右から車内に射し込んだ。景色が見えるようにと窓が大きなこの車はエレモアシティーには絶対的に向いていない。    やがて減速を始めると、目の前に上部駅のゲートが現れる。どこそこ監視プログラムの赤い光がギラギラと点滅し通行人の質を選別して、残念ながら弾かれた車両達はワンランク下の駅へのルートに誘導される。   『エレモアシティー上部駅に到着致しました。』    無事ゲートを潜ることを許されると、その声と同時に扉が開く。車外へ凝り固まった体を放ち、スキープカーを見送った。   無駄を極限まで排除したその駅は、ガチャガチャとした色も、耳を塞ぎたくなるような爆音も何も無い。広告ポスターすらそこには存在しないのだ。いるのは黙々と床を掃除するロボットくらいである。  自分の足音が響くほど静かな駅に、ノエルは居心地の悪さを感じてさっさとその長い通路を通り過ぎるのだ。          その駅を出ると、直ぐに騒がしいネオンが目を刺激する。だがそこを行き交う人々は派手な服で着飾る事もなく、クダを巻いて騒ぐ事もない。ゴミ一つ落ちていない道は、本当に以前訪れたエレモアシティーなのか?と疑いを持つほどだ。    ノエルが目的地へ迷わずに済むのは、その巨大な女神像のお陰だろう。そのはだけ乱れたドレスと妖艶にくねったポーズは"性の"女神といったところか。   『デリカロッド』はその女神像を掲げ、多くの娼婦を抱える高級娼館だ。天まで伸びんとする高いビルは、黒光りして禍々しい。    ノエルはこの娼館で働く情報提供者の女に詳しい話を聞くためやってきたのだ。  入口にはやはり赤い点滅が入店者を選別すべく光っている。    その扉の前に立ち、点滅が青色になるのを待った。難なく扉が開くと、高級を売りにしている通り黒とゴールドを基調とした洗練されたフロントが待ち構えている。    ノエルは受付でその娼婦を指名し、『505』のカードを受け取って口を開けて待っているエレベーターに乗り込んだ。      

ともだちにシェアしよう!