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第7話
ほんのりと甘い香りは、人間の性を刺激するよう振り撒かれている。そのふかふかのベッドはそれらを発散させる為のものだがノエルは全くその気がない。その広々としたスペースはスイートルームに負けず劣らず豪華だ。彼はソファーに腰を下ろし、娼婦が来るのをじっと待つ。
テーブルに飾られる美しい薔薇は、この部屋の黒に赤を差している。これを挟んで娼婦とゆっくり喋れる、恋人ごっこ付きというわけだ。
(…遅い)
十五分程経過しても女は現れない。さっさと情報の真偽を確かめ、不死身の男を救出しなければならないという焦りが苛立ちを加速させた。待ちきれず行動に移そうとした時、がちゃりと扉が開かれる。
ノエルは文句の一つでも付けてやろうと思ったが、その口が開いたまま固まった。
「すまない、待たせてしまったな」
「…ッ!?お前は…」
扉の前に立っているのは、王国打倒委員会に拘束されているはずの不死身の男本人だ。何がどうなっているのかと戸惑うノエルに「座って話そう」と提案する。それに反抗する意味もないので大人しくソファーに腰掛けると、彼はバラを挟んで向かい側に座った。
…枯れる。美しいバラなどその男の前では。
ノエルは|忽ち《たちま》目眩を覚え、自我を取り戻すため咳払いをする。
「どういうことだ?お前は王国打倒委員会に拘束されていると…」
「ああ、あれな。私が流したデマだ。」
違和感通り、サコダが得た情報は誘き寄せる為の餌だったという訳だ。
「来てくれて本当に良かったよ。お前が来なかったらどうしようかと考えていたんだ」
「…何故そのような事をするのか理解に苦しむ」
ノエルが規律違反してまで逃がしたというのに、それを全て無かったことのようにする意味があるというのだろうか。
彼はバラの花を一本引き抜いた。ぼんやりとその瞳に映し、直ぐに飽きたのか花弁をぐしゃりと拳で潰した。そしてその花弁が手放されテーブルに散る。
「頼れる人間がいなくてね。お前の顔が浮かんだんだ。」
「…悪いが俺には手伝えない」
「話だけでも聞いてくれないか?お前たちにとっても悪い話じゃないから」
回りくどいやり方でノエルを呼びつけ、助けて欲しいというのは一体どういう事なのか?男は好奇心を刺激する事に長けている。
「…………分かった。」
話を聞くだけなら、時間と金を無駄にするだけだ。と、先程まで十五分を惜しんでいた男とは思えぬほどノエルは寛容になった。
「ありがとう。…私はウィリアム・ウィルソンだ。差し支え無ければお前の名前を教えてくれ」
自分のことをペラペラ喋るべきではない。機密部の人間として当たり前のことだったが、その再会に舞い上がっていた男は葛藤よりも先に口が動いた。
「…ノエルだ」
差し出されたその手を躊躇いながら握る。一度は手錠を掛けた男にしか頼れない、それ程までに追い詰められているのだろう。
「それで?…話とはなんだ」
「…私をしばらく匿ってはくれないだろうか」
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