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第8話

三回ノックをして、「失礼します」と入室する。カンカンとヒールを鳴らし、背筋をピンと伸ばす。堂々としているのはこれからつく嘘を誤魔化すためだ。   「遅くなって申し訳ありません」    空間中に映し出された情報の数々は、正しいものから間違ったものまで膨大な量だ。彼はローレンが来たと同時にそれらを全てシャットダウンさせる。   「いや、わざわざ忙しいだろうにすまないね。」   目尻に浮かんだシワは彼がよく笑うという証拠だ。白髪混じりの髪を清潔に纏め、その制服には秩序維持課の尾を飲み込む蛇のバッジの他に、胸元の三星の階級章が輝いている。    彼、フェルトマイアー・GF(ジークフリート)は帝国警察 秩序維持課の課長だ。そのゆったりと余裕のある立ち振る舞いはまさに総括に相応しい。   「彼に聞いたかな?」 「はい。ノエル・アーサーは確かにあの周辺を捜査していたようですが、王打会との接触は一切なかったと。…例の男の情報もリク・サコダが得たもの以外今のところありません」    ローレンは考えてきた台本通りの台詞を披露する。緊張から暑くもないのに額に汗が滲んだ。   「捜査部の情報は貧民区の子供の証言だけ、…信憑性に欠けます」  「なるほどね。まあ彼は優秀だから虚偽報告するとは僕も思っていない。それに君が更に部下の失態を隠すため虚偽報告をする訳ないもの」  穏やかにそういったフェルトマイアーは、癖のように笑顔を作る。こちらを疑っているのかいないのか、彼は本心を一切見せない。     「それにしても君が二人を推薦したのには随分驚かされたよ。何か決め手はあったのかな?まだサコダ君は若いし可能性もある、アーサー君は能力だけで言えば頭一つ突き抜けているけれど、バランスの良い隊員は山ほどいる」     (何故今その話を…)とローレンは台本以外の質問に嫌な気持ちになる。恐らくフェルトマイアーは敢えてその話題を引っ張り出したのだろう。   「…彼らはそれぞれ欠点があります。これを機にその欠点を克服して貰おうと思った迄です」 「僕はてっきり彼らが王国に(よしみ)があるから選んだのかと思ったよ。」    ローレンは奥歯を擦り合わせながら「…報告は以上です。仕事に戻ります」と再び一礼してさっさと退室した。笑顔を浮かべる男に背を向けた彼女の表情は鬼のように変化する。   (クソッタレ!…ノエル、私に虚偽報告させたのだからちゃんと役に立って欲しいものね)    苛立ちからか、ヒールの踏み鳴らす音が乱暴に廊下に響いた。通り過ぎる人間たちは彼女を避けるように道を開ける。廊下の向こうで全力疾走する人影は、汗をダラダラ流しながら真っ先にローレンの元へと駆け寄った。     「ローレン部隊長!大変です!捜査部から至急署に戻るよう通達がありました!」      その慌てぶりからして何か起きたのだろう。彼女はその足を止めることなく冷静にどうしたのかと問いかける。   「捜査部の隊員が何者かに襲われ、……その…ぶよぶよに…」  

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