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第10話

ぶくぶくと泡を吹きながら目を剥く。酸素をどうにかして体に取り込もうと暴れるソレに男がぐっと全体重を乗せると、骨がボキ、ボキと音を立てた。    エレモアシティーの素晴らしい夜景を背後に、その部屋ではおぞましい光景が広がっている。 「クソ!邪魔しやがって!」    男は癇癪を起こした子供のように何度も何度も転がった死体を蹴飛ばして、ぺっと唾を吐く。それでも足りないのか椅子を掴み、大きく振りかぶって肉を殴打するのだ。自身の体にも無数の穴があるというのに、まるでそんなものは無いと言わんばかりの力強さだ。   「あと少しだったのに…お前らのせいでまた逃げられた!ようやく回ってきたチャンスだってのに!!」      部屋の隅で蹲る彼女は、両足を撃ち抜かれ今にも意識を失いそうだ。いっそ気を失った方がまだマシだっただろう。今度は彼女に標的を合わせ、肩を上下に大きく揺らしながらズボンの右ポケットに差し込まれた拳銃を抜き取った。  逃げようにも背後は壁、男は輝きの違う両目で冷たく見下ろした。その後ろで、転がっていた死体が空気を入れられたように膨れ上がる。赤黒く、ブヨブヨとした何かに変わっていくのだ。   (嫌だ!あんな風にはなりたくない!助けて…死にたくない!)    向けられた銃口は、彼女の思いも虚しくその脳天をぶち抜いたのだった。            ほんの数時間、その場所を離れていただけだと言うのに一体何があったというのか。    捜査会議から開放されたノエルはその足でデリカロッドへ向かった。黒いビルに反射する赤い回転灯は物々しく、入口には大量の野次馬が集っている。それを収めるため警察官が複数名揉みくちゃになり、怒号が飛び交うのだ。遅れてやってきた車は、すぐ近くに横付けされる。   (……遺体搬送車?)    ノエルはその野次馬を離れたところから観察する。帝国警察がいる以上、下手に近づけばどこで情報が回るか分からないのでいつもより慎重だ。   (あいつは大丈夫なのか…?)   ザワついた集団は入口に視線を向けた。出てきたのはタンカの上に転がった黒いビニールだ。もちろん中身は人だろう。それが次から次へと車の中に運ばれている。ざっと見る限り五体程がそれに押し込まれるように収容される。野次馬もそれを見てどんどんまばらに散っていった。   「テロ?怖いわね」 「いや、ここの社長に恨みを持った奴の犯行らしいぞ」  聞こえてくる憶測に耳を立てながら、ノエルはそっとその集団に背を向ける。これ以上ここにいると周りにノエルの存在が認識されてしまうだろう。それは色々とまずい。どこに捜査部の連中がいるか分からないので、計画を練ってから行動することが良いと判断したのだ。  

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