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第15話
それは子供を抱える母のように優しく、ノエルを包み込んでいる。暖かい腕の中はその目から零れた涙を隠すように守っているのだ。
「…………」
「おはよう。」
ウィリアム・ウィルソンはそう言うとノエルの涙を躊躇うことなく拭った。
「お前ここで何してる」とノエルはその腕を振りほどいて上体を起こす。確かに寝室に鍵をしていないが、誰が潜り込むと思うのか。
「勝手に入ってしまったことは申し訳ない。随分と魘されていたから心配だったんだ」
「だからといって…」
大の男がそれこそ大の男が寝ているベッドに入るというのはどういう事なのか。ノエルはあからさまに眉を寄せて考え込む。
(昨日の発言も意味不明だった。…それに振り回されている俺も俺だが…)
「私が魘されている時はそうして貰っているから…嫌だっただろうか?」
「…嫌かどうかの話ではなく、……はぁ…。」
考えるだけ無駄なような気がする。この男を理解しようとしても的外れで、カロリーを無駄に消費するだけだ。
ウィルソンはベッドから立ち上がると腕を突き上げて背伸びをすると、寝癖の付いた白金の髪をぐしゃぐしゃと指で整える。
「それに温もりがないと眠れないから。お前のおかげで久しぶりによく眠れた」
「……それは良かったな」
「嫌じゃなければ―」
「俺は周りに人間がいると眠れない。」
男のセリフを遮り、ノエルは心も体もある程度の距離を保つ。ウィルソンは何かと近づきたがるが、その行動は理解から一歩遠ざかる。
「勘違いするなよ。俺はお前と馴れ合うつもりは無い。…お前を匿うのはこちらにメリットがあるからで、それ以上でも以下でもない。」
「…ああ、分かってる」
「家族ごっこはうんざりだ」
ノエルは冷たくそう言い放って直ぐに後悔した。男が寂しそうにしていたからではなく、なりたくない自分になっていたのだ。狡く、怠惰で、傲慢な…気を抜いたらその腐った性根が顔を出す。
(…クソ)
ノエルはベッドから立ち上がる。暇な男に構っている時間はないのでさっさと洗面所に行き身支度を済ませ、本日も一日解決に向かわない事件と向き合わなければならない。
「もう出るのか?気をつけろよ。」
正直今日は職場に足が進まない。それは後ろで見送る"原因"を隠していたノエルのせいで、嵐がやってくるのだから当然だ。
「おかしな真似はするなよ」と釘を刺して、ノエルは振り返ることなく扉の向こう側へ足を踏み出した。
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