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第16話
『オイ、主ガオ前ノセイデ怒ッテタゾ。ハハハ、ザマーミロ』
床を掃除しながらそいつは悪態をつく。ウィルソンの足にガンガンとぶつかって馬鹿にしているのだ。どうやら人格の設定が不十分で、可愛げのないキャラクターになってしまったようだ。
「そこのクソロボット、お前は黙って床を掃除していろな」とそれを軽く蹴りつけて、誰もいない部屋をゆっくり見渡した。
ウィルソンはとりあえずそのソファーに腰を下ろし、ぼんやりと天井を眺める。
「家族ごっこね、…そんな言い方ないと思わないか?」とソファーの下までモーター音をギュルギュル鳴らしながらやってきたそいつに話しかける。
『知ルカ!オ前ガ主ニトッテ家族ジャナイダケダロ!』
ロボットは辛辣な言葉を並べて煽るようにその丸いボディをクルクルと回すのだ。その動作でゴミが吸い取れる訳もなく、むしろ埃を空中に舞わせている。それでも男がそれに話しかけるのは不安が重なっていたからだろう。
「あいつが昨日飯を一緒に食べようと提案したんだ。どちらかと言うとごっこ遊びがしたかったのかと思ったんだ」
『勘違イダ。俺ハ掃除デ忙シイ、暇人二構ッテル暇ハナイ!』
「…このクソロボット」
再びそれを蹴って、左のズボンのポケットに入れた薬ケースの蓋を開ける。残念ながら一粒たりともそこに錠剤は入っていない。
「うーん、……困った。自由に動けないのはこんなにも不便なのだと自覚したよ…」
いつ王国打倒委員会とかいう連中と鉢合わせるか分からない以上、薬を貰いに行くことも難しい。せめて自分の身を守る武器があれば話は別だが、元々持っていた拳銃はノエルがどこかに隠して手元にない。
(仕方ない、先に面倒事を片付けるか…)
「おい、クソロボット。ちょっとここにゴミが残ってるぞ」
『ドコダ?』
男は近づいてきた掃除ロボットを両手で抱き上げると、パワー調節のボタンを長押しした。
『オイ!ヤメロ!下ロセ!』
数秒後、ギャーギャーとうるさい機械音は止まり、掃除モードから通信モードに切り替わった。ぽん、と現れた小さなスクリーンはそこから『ダミー四』宛に連絡を入れる。
接続中の文字が三秒ほど映し出され、それは直ぐに応答した。
『ウィルソン!?なんで連絡してくれなかったの!』とその女は金切り声を上げて騒ぎ出した。金が有り余っているのだろう、その背後には豪華絢爛で趣味の悪い家具がチラついて見える。
「実は色々と困っていてね。」
『何かあったの?貴方に会えなくてずっとずっと寂しかったんだから!』
「私だって寂しい。だけれど今君に会いに行ける状況じゃないんだ」
甘い声色は自分で聞いていて吐きそうになった。だが彼女はその言葉を真に受けて「私に何でも話して!貴方のためなら何だってしてあげる」と身を乗り出すのだ。
「……実は――」
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