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第25話

(……はぁ、ついてないなあ…)    繁華街、そこに大きなボストンバックを抱えながらヒラキ・ライトは自分の運のなさに嘆いていた。   『言ったやろ、一日でも遅れたら出てって貰うって』    退院してやっと家に帰れる、そう思った矢先の出来事だ。ハウスクリーニングの業者が頼んでもいないのにヒラキの家から物を運び込んでいる現場に遭遇したのだ。一階の大家の家にどういうことか尋ねると、上記のような文言を突きつけられた。    事情を説明しても、『うっさいわ、あんたトラブルしか持って来えへんやんか。家賃も滞納、近隣トラブル、今までよう我慢したわ』とぐうの音も出ない返答に、ヒラキは言われるがまま出ていくしか無かった。    運良くハウスクリーニングの業者が捨てていなかった服は回収できたが、へそくりの現金や身分証明書、カードなどはどこに行ったのか不明のままである。   (とりあえずデリカロッドに行ってシフトを組んでもらわないと…。でも事件後営業してるのか?)    無一文のヒラキは徒歩でデリカロッドに向かうつもりだったが、荷物が肩にくい込んで辛く、休み休み歩いていたらもう正午を回った。   (電話も財布もどこにも無い…)    ジュース一本買う金がない、 どうしたものかと天を仰ぎ、情けなさで涙が出そうである。迎えに来てくれる人がいない、というのはヒラキを更に落ち込ませた。   (…何もかも上手くいかない…)    ヒラキはボストンバックを地面に置いて、その上にどすんと座る。ランチタイムの人々をぼんやり眺めて後悔に後悔を重ねた。ヒラキは入院する一ヶ月ほど前、長年の友人と大喧嘩して『絶縁宣言』をしたのだが、それが今になって響いてくるとは思っていなかった。   「あーどうしようかな…ってあれは…」  視線を遠くに向けると、頭一つ飛び抜けた見覚えのある男がこちらに向かって歩いて来ている。  真黒の髪は光に透ける事無く、無表情のまま歩く男にヒラキは(げげ!)と顔を引き攣らせた。   その制服のせいか彼が進む道は人が避ける。先日ヒラキの所に来たバッジ付きだ。その右腕には昼食だろうか?一人分にしては大きめな袋を下げている。   (ど、どうする?走って逃げる?いやいや流石にそれは失礼すぎるだろ…。とりあえず俯いて知らん顔知らん顔…)    来るな、こっちへ来るなと念じる。しかしバチン、と向こうの視線がヒラキに合わせられ、男がこちらにずんずんと向かってくるのだ。   「おい、ヒラキさん。…退院したのか」 「ええ…まあ。先生がもう大丈夫そうだからと…。体だけは丈夫なんですよ…あはは…」    ヒラキは無理に笑ってみせるが、男は愛想笑いの一つも浮かべない。怒っているのか呆れているのか分からぬ顔でボストンバックが気になるのかじっと見ている。   「その大荷物は?」 「えっと…色々ありまして」   一度話しただけの男、更にバッジ付きに話すのはなんというか…ヒラキのプライドが許さなかった。見た目も職業も全てが上の人間に全財産ゼロ、家も無いという情けない姿を見せたくは無い。   「色々?」    ぎっとその眉間にシワが寄せられ、ヒラキは肩を縮こませる。無表情が怖い、と思っていたが表情が付くとそれはそれで怖い。   (うぅ、この人苦手だ…)   「話せ」と低い声で言われると、嫌だとは言えない。ヒラキはその圧に押し潰され事の顛末を一から十まで話した。プライド?そんなものは数秒前に捨て去った。   「というわけで無一文、どうにか歩いてデリカロッドに向かう途中ですよ…。」 「…そいつは気の毒に…。」 「…じゃあ、そういうことで…」    ヒラキはまだ体力は回復していなかったが、男との会話を終わらせる為立ち上がり、重たい荷物を持ち上げる。しかし視界がグラグラ揺れて蹲ってしまった。   「無理はしない方がいい。…ここから家が近い。休んでいけ」 男の言葉にヒラキは直ぐに「いやいや!…それは悪いよ……」と返した。しかし彼はヒラキのカバンをひょいと持ち上げさっさと歩いていってしまう。なんて強引な男だろう、と内心愚痴を零してその背中を追いかけた。         

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