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第26話
「ここの紅茶は美味しいよ。君も飲めばいいのに。ひと口いるかい?」
目尻にシワを刻み、口をつけていないカップをずい、と目の前に差し出したフェルトマイアーに、男は首を横に振った。
「…忙しいところ悪いな」
どこで買ったのだろう?センスの欠けらも無い帽子から覗く美しい顔はいつ見ても飽きない。
「構わないさ、今朝とりあえず一段落ついたからね。」
ちょうどお昼時だからだろう、その喫茶店はそこそこ客が入っている。彼はソワソワと落ち着かない様子で辺りを見渡した。恐らくフェルトマイアーの近くに捜査員がいないか警戒しているのだろう。
「大丈夫、捜査は打ち切られたから。二つの事件も無事解決、何も問題ないよ。君が今のところ心配すべきは王打会くらいかな」
男はホッとしたように表情を緩ませ、水を一口含む。そしてパッドで黙々とメニューを眺めている。
「ところでどう?アーサー君とは」
「…扱いの難しい男だ。何を考えているのか分からない」
「はは、彼は組織内でも浮いているからね。まさか君が彼に目をつけるとは…お目が高い」
いつもはガラクタみたいなものばかり集める癖があるが、今回は違うらしい。フェルトマイアーは満足気に美味い紅茶を飲み下す。
「そういえばどうやってアーサー君を落としたの?彼が簡単に君を匿うとは思えないけど」
「『私の安全が確保出来たら帝国警察に出頭する』と言っただけだが…」
「つまり君はその条件で今彼と一緒にいる、ということかい?君も君なら彼も彼だなぁ」
「そうなるな。ああ、しかし捜査が打ち切られたとさっきお前は言っていた。…じゃあ出頭する理由もないわけだ」
ずる賢く片頬を釣り上げた頃、男の注文した肉ライスがテーブルに運び込まれる。油でギトギトの不健康そうな食事だ。彼は腹が減っていたのかそれを美味しそうにバクバク食べる。
「…どうだろう、…アーサー君はあの子の代わりになりそうかな?」
"あの子"の話題に男は匙を持ったまま固まった。
怒り、憎しみ、…どうしようも無い寂しさ。その一瞬で表情を変えた彼は匙を置くと、静かな声で「………その話はしたくない。」と殻に閉じこもる。
「でも絶縁されたんでしょう?いい機会じゃない、君はあの子に依存し過ぎてた。傍から見たら異様だった。…他にも目を向けてご覧よ。」
(そもそもあんなガラクタが一番のお気に入りなんて友人として心配になるよ)
男は俯いたまま残ったライスを無理やり口に押し込んで、テーブルに二人分の食事代をドン!と雑に置いた。
「…何にせよノエルはあいつの代わりではない。色々と世話になったな。」
彼はそう言って席を立つとさっさと店を出ていった。男は"あの子"をとやかく言われることが嫌いだ。
(さて、アーサー君、君がどこまで引っ掻き回してくれるか…)
一人ほくそ笑んで紅茶のおかわりを注文した。
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