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第27話

ノエルは砂糖レモンの缶をソファーで縮こまっているヒラキに手渡して全ての部屋を見て回る。…どうやらウィルソンは外出中のようだ。   『オイ主、ナンカ変ナ奴ガイル』とヒラキの足にガンガンとぶつかり、威嚇のつもりかボディーをクルクル回転させる。   「いた、痛た…止めろよ…」とロボット相手に情けない対応を取るヒラキに代わってノエルがロボットを足蹴にして方向転換させた。    ホコリを撒き散らし廊下に行くそれを、彼は珍しそうに眺める。   「…喋る掃除ロボットなんてどこに売ってるんですか?」 「いやこれは元々喋らない。」 「へぇ〜、じゃあ貴方が改造したとか…」 「いや、これは同居人が勝手にしたことだ。最近改造されたせいかゴミを吸わなくなったがな…」    ヒラキは「え!同居人の方がいらっしゃるんですか?…だったら俺帰りますよ…」と悪い顔色で立ち上がった。だがノエルがギロリと睨むと彼はまた愛想笑いを浮かべて座り直す。   「…実は聞きたいことがあってな」    何も無くしてヒラキを招き入れた訳では無い。勿論具合が悪そうだったというのもオマケの理由だが。  彼は「…俺何もまだ思い出せてないです…」と申し訳なさそうに眉を下げたが、ノエルが聞きたいのは事件そのものの事では無い。   「デリカロッドにいた王国民の三人が行方不明だから探して欲しいとレミ・ゴールに頼まれたんだが…」 「え?彼女達が行方不明?……うっ…」    ヒラキは脳みそに走る痛みを堪えるように頭を抱えた。そして何か思い出したのかハッとした顔をするのだ。   「ユカちゃん!…思い出した!俺はあの日清掃していて…そこにはユカちゃんもいた。…扉を開けたらいきなり銃を向けられて…」 「彼女は王国民の従業員なのか」 「……はい、ユカちゃんとカヲリちゃん、アユムちゃん…俺とその三人がデリカロッドで働く王国民の従業員です…。俺は…意識がなくなって…気がついたら病院にいたんだ…」    ヒラキはその現場を思い出し、恐怖に震え出す。それを宥めることはノエルはしない。ただ眉を寄せ(デリカロッドの被害者にユカという名前の女はいなかったはずだ)とややこしさに苦悩する。   「犯人は見たのか?」 「男二人組で、顔は…何かで覆っていたような…。…そうだ、社長!あいつが死体を処分するからって…そいつらは言っていた」   ヒラキの記憶が絶対に正しいとは思っていない。だが現に三人は行方不明、というのだから嘘だとは言えない。    (…調べる価値はありそうだな。あとで話を整理するか…)   「ただいま」    ちょうどその時ウィルソンが玄関の扉を解除して帰宅する。   「ノエル?…帰ってるのか?」とひょっこりリビングに顔を出した男は、ヒラキを見るなりその顔を引き攣らせた。そしてヒラキも同様の反応だ。    緊張の糸を極限まで引き伸ばしたようなヒリついた空気が二人の間で交わされる。   「……なんでお前がここにいるんだ」 「…えっとそれは俺のセリフなんだけど…」    彼らが視線で『どういう事だ』とノエルに問いかける。だがむしろノエルが尋ねたい。『ただお互い職場で顔を合わせるだけの関係でそのような空気が出せるのかどうか』と。   「病み上がりで無一文、しかも顔色が悪かったから一時保護しただけだ」    ノエルはまずウィルソンに、その次にヒラキに、「訳あって匿うことになった」と説明する。その間も彼らの空気感は変わることはない。   「二人は知り合い、…という事でいいのか?」   「…"ただ"の顔見知りです。」とヒラキは動揺すること無く断言した。一方でその言葉を聞いたウィルソンは明らかに表情が曇り、傷付いたように視線を床に落とす。   「そうなのか?」 「……そうだ。ただの顔見知りだ。それ以上ではない…。」     掠れる声は微かに震えて…ノエルは不覚にもあの殴るような高揚に体が侵食されていく。それと同時に隣にいるこの冴えない男がそれを引き出しているのだと思うと敗北感に似たドス黒い感情が湧いてくるのだ。   (……何を考えてるんだ…俺は…)   ウィルソンは来た道を引き返すように廊下に出ると、ノエルが普段使っている寝室に勝手に閉じ篭もる。    気まずい空気に取り残されたノエルはヒラキに視線を向けると、彼もまた後悔している、といった表情で俯くのだ。   「…ただの顔見知りじゃ無さそうだな。」 「……」 「大っぴらにできない関係か?…レミ・ゴールが"恋人みたい"だと言っていたが…」 「断じて違います!……違うけど…簡単に言葉で言い表せるような関係なら苦労しない…かな」   ヒラキは言葉を詰まらせる。自己嫌悪に呼吸を浅くして、廊下に消えた男の方へ気が行っているようだ。   「喧嘩でもしたのか」 「…まあそんなとこです。」   どうしてか非常に不快だ。ムカムカして、奥歯がギリギリ鳴る。このどこにでも居そうな男がウィルソンの"特別"ではないか、と疑いを持ったその時から。    「ヒラキさんは無一文だと言っていたが…泊まっていくか」      ノエルは連れてきた癖に、ヒラキをさっさと追い出したくなった。これ以上ウィリアム・ウィルソンの事で話を続けたなら最悪な対応をする自信がある。   「…いえ、これ以上ご迷惑かける訳には…あいつも居候してるみたいだし…。俺は知り合いの所にしばらく泊めて貰います」   ヒラキは帰り支度をして、すくっと立ち上がる。ノエルは玄関まで送ることにした。人畜無害そうな男に八つ当たりするのは避けられてほっとする。     「何か三人の事で思い出したことがあったらここに連絡して欲しい」と走り書きのメモを渡した。    廊下を行く男は、ウィルソンが閉じ篭もる部屋の前で一瞬足を止めて、後ろ髪を引かれながら玄関の扉を開ける。   ヒラキは愛想笑いを浮かべて言った、「すみません。あいつ、…迷惑かけるかもしれないけど…」と。  

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