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第31話
「一体どう言った風の吹き回しだ?」
フォークに突き刺さったままの肉、行儀が悪いとは分かっていてもその視線に耐えられずウィルソンはノエルに話しかける。
「…捜索打ち切りの祝いだ。たまには外食もいいだろう」
ふかふかの椅子に美味しそうな料理、騒がしさのひとつもない静かな個室は周りの視線を気にする必要もないので楽だ。
ノエルは家に帰った途端、ソファーで横になる男を叩き起して何事も無かったかのように食事に誘った。昨日の今日で断られるかとも思ったが、彼も無かったことにして誘いに乗ったのだ。
「…まあそうだがね。高いんじゃないのか?ここは」
「俺が高いものを食べたかっただけだ。」
「そうか。…じゃあそのついでに私も食べるかな」
ウィルソンはノエルに視線をやっては目が合いそうになると逸らした。心做しか元気がなく、口数も少ない。
時々脇腹を押さえてじっと痛みに耐えているような仕草をする男に、昨晩のノエルが自己防衛で発砲し出来た傷が痛むのではないかと心配して、(傷は治っているはずだ)と思い直す。
「今日ヒラキさんに会ってきた。どうやらデリカロッドの寄宿舎にいるらしい。」
彼は肉を飲み下してフォークを皿の上に寝かせる。俯けばその長いまつ毛がライトに照らされてキラキラ光って美しい。
「…お前は恋愛に否定的だと教えて貰った。」
「……その話はよそう、飯が不味くなる」
「 同じ屋根の下で暮らす以上、話し合いを放棄することは望ましくない。」
「だったら私を追い出せばいいだろう。お前に何一つメリットはないだろ」
ウィルソンは『出ていく』とは言わない。口元が勝手につり上がって、ノエルは必死に我慢した。普段は表情を作ることに苦労するのに、この男の前では無表情を崩さないように苦労している。
「追い出すつもりは無い」
「何故?私はお前の感情には応えない。それにまた何かを拍子に殺そうとするかもしれないんだぞ…」
赤い唇をガリ、と噛むのは自分を傷つけて罪悪感を紛らわせるためだろう。ウィルソンは衝動を制御出来ず、理性が戻った時に後悔するタイプの人間のようだ。
「お前は誰からの好意も受け取らない。…誰のものにもならない。…そうなんだろ?それで十分だ。」
("今"はそれでいい。)
凶暴な牙を全て抜いてから自分のものにすれば良いのだ。念の為腕も足も捥 いで、ノエル無くして生きていけないように依存させなければ。
「…まあ私にとっては都合が良いがね。お前といると落ち着くし…」
ふと見せるその笑顔に、黒く覆われた心がドロドロに溶ける。微かに残った純粋と混ざりあって…その感情はノエルがロボットではなく人間だと実感させるのだ。
「ノエル、食べないのか?」
「…食べる。」
食事を再開させて、二人だけの空間を堪能する。
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