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第32話
お腹が空いた少年は、いつものようにゴミ箱をネズミや野良犬と共に漁る。時には彼らと喧嘩になり、いつも護身用に持ち歩いている棍棒で叩いて追い払うのだ。
絶食三日目、体もクタクタでたどり着いたゴミ箱には残念ながら腐った残飯しか残っていない。これを食べたらそれこそ脱水症状で死に至る。唯一食べれそうなのは地面に転がって泥まみれになった殆ど身の付いていないフライドチキンの骨くらいだろう。匂いを嗅いでみて、ギリギリ食べれると判断した。
少年はそれを拾って泥を指ではらい落とす。
「坊や、ちょっとお待ちになって」
それを口に入れようとした時、背後から高くか細い声が呼び止めた。振り返ると、ここには相応しくない身綺麗な女が優しい笑顔を浮かべて立っている。その右腕には黄色のスカーフを巻いて、腕の中のカゴには果物が沢山入っているのだ。
「お腹、空いているのでしょう?」
「…うん。」
「これを差し上げますわ」
女は赤いリンゴを少年に差し出した。だがそれを受け取ることは絶対にしない。…毒が入っているかもしれないからだ。
「可哀想に、他人を信用出来ませんのね。」
女はそのリンゴをむしゃりと食べる。どうやら毒は入っていなかったようだ。ゴクリとなった少年の喉は、それを欲している。その女の食べかけだろうがなんだろうが、毒の入っていない食べ物、それもゴミ箱や地面に落ちた汚い食べ物では無いのだから当然だ。
「私共の元へいらっしゃいまし。きっと幸せになれますことよ」
聖女のような微笑みで差し出された手のひらを、少年は握った。
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