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第44話
午前七時を回った頃、ヒラキ・ライトはようやく仕事を終えて帰ってきた。
部屋は明かりが付けられたままだが構わない。まずは全ての部屋が安全かどうかの確認からだ。浴室、台所の床下の収納、ベッドの下からクローゼットの中まで。それが済めばようやくそこが我が家だと実感出来る。
空腹を満たすためパサパサのパンを黙々と食べながらニュースでも見ようとテレビを付けた。
その日世間を賑わせたのは、最近若者に人気を獲得している王国打倒委員会だ。人気の秘訣はまだ未熟な精神と狭い視野の彼らに突き刺さるものがあるのだろう。
『ここ、イロメキ劇場が事件の現場となりました。怪我人は―』
マスコミがこぞってそこに集まってワイワイとお祭り騒ぎだ。
「……またこいつらか。よくやるよなあ…」
ヒラキはどこか冷めた様子で聞き流す。溜まった請求書をテーブルに広げて、今月の給料と照らし合わせてガックリ肩を落とした。こんな貧乏生活では先が思いやられる。
『―公演内容が『王国物語』だった事から犯行に及んだ可能性が…』
「………王国物語?」
ぼとりと床に食べかけのパンが落下する。その脳みそには前々日断った誘いを思い出していた。確かウィルソンは王国物語の公演を見に行くと言っていた。
(いや、考えすぎだ。他の劇場に決まってる。…それにあいつは一人で行くと言ったけど結局行かなかったかもしれない)
胸の奥が騒ぎ出して気持ちが悪い。何か良くない事が起きているのではないか。ヒラキはその予感を信じたくないが、大抵この予感は当たる。
「…それに、俺には…関係ないし……」
そう口にしてみたものの、彼は落ち着きなく部屋を練り歩く。落ちたパンをぐにゅりと踏み潰したが気が付かず、ガリガリと音が鳴るほど自らの唇を噛んだ。その自傷行為に気がついたのは血の味がしたからだ。
『証言によると観客の男性が連れ去られたという情報もあり、警察は慎重に捜査を―』
悪寒が背中から襲ってくる。鼓動がおかしな脈を刻み、このままではゆっくり眠ることも出来ないだろう。
心配なら、確認すればいい。何度も、何度でも。
ヒラキは財布を掴み取って玄関へと向かった。
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