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第45話

 空間に浮かび上がった映像の中で、彼らはその女性の服を脱がせ、好き勝手に暴行を加える。露出された肌にタバコを押し付けて、飲み終えたビール瓶を穴という穴にぶち込んでケラケラと高笑いをするのだ。  パンパンに腫れ上がった顔で彼女は苦しそうに呻き、痛みと屈辱に耐えているだけだ。   「―…という動画なんだかね」   フェルトマイアー・GF(ジークフリート)は映像を停止させると、神妙な顔をしてそこにいる二人の顔を順に見回した。   「課長、これはなんの映像で?…俺はてっきりイロメキ劇場関連の事かと思ったが…それになんでこいつと…」   捜査部隊長のケイシー・ケンドルは、ゴツゴツとした顔を中心に寄せ不満を隠すことなくそう言った。苛立っているのか腕をがっちり組んで、隣のノエルに敵意を剥き出しにする。    「機密部にしてもまだマシなやつがいたろうに…」と嫌味を垂れ流し、ノエルが反発するのを待っているようだ。だがノエルは他人の悪意に反応していられるほど余裕が無い。    昨夜ウィリアム・ウィルソンに贈った腕時計の位置情報がイロメキ劇場に向かったことを確認していた。すぐ帰るだろうと特に何も考えなかった、その事が悔やまれる。    そして起こった人質誘拐事件。怪我人は幸い居なかったが男が連れていかれたという証言にノエルは確信していた。ウィルソンは事件に巻き込まれたのだ。   (…早くどうにかしなければ…)    フェルトマイアーに呼び出される前、ウィルソンの居場所を示すピンがエレモアシティー南区の工場地帯で停滞していた。そこにウィルソンが拘束されている、と考えるだけで苛立ちと焦燥感に襲われる。     「今回君たち二人には別件を頼みたくて。彼女は王国打倒委員会に潜入していたミランダ・モスカという女性でね。帝国陸軍の情報化の諜報員だ。」 「…帝国軍?まさかとは思いますがこの女を救出しろなんて言わないですよね」   ケイシーの機嫌が更に悪くなる。元々帝国警察と帝国軍は干渉せず、それぞれ独立した組織だ。それが何故帝国警察に話が回ってきたのか。   「そのまさかだよ。確かに本来ならば我々が関与すべきところでは無い。しかし彼らは『仲間と交換するなら解放する』と言っていてね。その仲間っていうのが現在ウチで拘留されているサロメ・バーンという少女なんだ」    フェルトマイアーは淡々と説明をしているが、ノエルは正直何一つ頭に入っていない。 (…クソ、それどころでは無いのに…)と苛立ちを募らせ、唇をぎゅっと結んだ。何処ぞの知らない女の救出任務に就くより、男を救出しなければならない。   「同行者の人数は二人まで、らしいから君達を選んだよ」と軽いノリで話すフェルトマイアーに、ケイシーとノエルはムッと顔を顰める。   「詳しい事は後でデータベースに送るね。今日は来る日に備えて帰っていいよ」と二人から不平不満が出る前に話を締めるのだ。   「……ではお言葉に甘えて今日は帰ることにします」とケイシーは不貞腐れたようにそう言って出口へ向かった。ノエルも会釈だけしてさっさと帰ることにする。帰って何か良い方法を考えなければ。   「あ、アーサー君。君は待ちたまえ」  男がそう引き止めるので、ノエルはまた焦燥感に歯止めをかけられるのだ。         「……何でしょうか」     フェルトマイアーはにっこりと胡散臭い笑顔を浮かべ、再び空間にモニターを表示させた。  その映像には帽子を深く被ったウィルソンがイロメキ劇場へ入ろうとしている姿が映し出されている。   「彼に見覚えは?」    そう問われ知っているとは言えない。しかも不死身の男を匿っているのだ。ノエルは静かに首を横に振って、無意識に視線を逸らした。   「隠す必要は無いよ。彼から君との関係は聞いているから。」 「……」 「うんうん、警戒心は大切だ。下手にペラペラ喋らない、君なら彼を任せても大丈夫。」  フェルトマイアーは満足気にそう言うと、その白髪混じりの髪を手のひらで軽く整える。   「どう?楽しいでしょ。彼と過ごすのは」    ウィルソンの事にマウントを取られたような気がしてノエルはぎっと睨んだ。目上だろうが何だろうが気に入らない。   「僕を敵視する必要は無いよ。何せ僕は君を応援してるからね」   彼は不死身の男の捜索が中止されたことに多少なりとも関係しているだろう。それともカマをかけているだけだろうか。   「…脱線してしまったね。本題に戻ろう。今回のイロメキ劇場人質誘拐事件で誘拐されたのはウィルソン君だ。」 「……」    彼は「大丈夫」と明るい声色で励ました。ノエルにとっては何も大丈夫ではない。   「彼は王打会から目をつけられていたからねぇ。」 「…」    フェルトマイアーは呑気に体の凝りを解しながら緊張感の欠けらも無い。不死身の男が王打会に拉致されたというのにだ。   「彼を連れ戻せとは言わないんですね」 「自分でどうにかすると思うよ。それに我々が組織として動くと結局不死身の男は帝国警察の支配下になる。」    王打会に奪われるのも帝国警察に奪われるのもノエルは絶対に許せない。ギリギリと奥歯を噛むノエルの反応を見て明らかに彼は楽しんでいる。   「…でも個人で動くなら話は別だ」 「…それを伝えるために俺を引き止めたんですか?」  「うん。"僕は君のプライベートまで干渉しない、だから何してても分からなかった"ということで。」 「…課長は何が目的ですか?」 「沢山ある中の一つとしてだが、君はウィルソン君に相応しい人間なのではないかと思ってね。」    あの美しい男の隣には洗練された価値あるものがいるべきだ、とフェルトマイアーは続けてそう言った。ノエルはそれに謙遜などで返すつもりは全くない。   「相応しい…ですか。俺に適任ですね」 「うん、僕もそうだと思うよ。…じゃあ頑張ってね」      ノエルは男に一礼し退室する。その背中を満面の笑みで見送ったフェルトマイアーは(自信もある、実力も、容姿も金も何もかもガラクタでは太刀打ちできない)と上機嫌に鼻歌を歌ったのだ。      

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