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第47話
「はぁ〜、足痛いんですけど〜?」とその生意気な少女は吐き捨てる。自分の犯した罪を認識していないのか、はたまた親が甘やかした成果なのか。
「つーかあんた達あたしを誰だと思ってんの〜?パパに言えば簡単に辞めさせられるんだから」
「おいクソガキ。次喋ったらぶん殴るからな。その鼻へし折って牢屋にいりゃ良かったって後悔させてやる」
ケイシーは苛立ったようにそう吐き捨てる。外が見えるほど倒壊したこの廃墟が王国打倒委員会が指定した人質交換場所だ。事前におかしな仕掛けがないか確かめたがどうやらそのようなものは無いらしい。
「はぁ?おっさんキモーイ。やれるもんならやってみなよ。つーかおにーさんがあたしの隣に来てよ〜」
その挑発はあまりに頭が悪い。ケイシーは宣言通り鼻目掛けて拳を叩きつける。きっと彼も時間通りに来ない王打会の連中に苛立っているのだ。
「おい、アーサー。上に告げ口したら許さねぇからな」とノエルに釘を刺した。少女はその場に座り込んで、揺れる脳みそに翻弄されている。
「王打会は人質の条件に無傷で、とは言っていないので死なない程度なら問題ないかと」
「…お前いい性格してんな。流石王国民の血が混じってるだけある」
ケイシーは嫌味をたっぷり込めてそう言うが、ノエルはソワソワと視線を泳がせデータベースを確認しているので気にならない。
(クソ、…おかしい動き方だ)
ウィルソンに渡した腕時計の位置情報が不自然に移動している。昨日は工場地帯から区内の風俗街、そして今朝は南区から西区へ…そこからエラーになった。
懸念していた通り、ウィルソンは腕時計を奪われたのだろう。恐らくイロメキ劇場から出発してから初めに着いた場所、工場地帯のミナミ縫製工場に監禁されていると考えられる。
(いや、もしかしたらイロメキ劇場にいる段階で奪われている可能性も…俺があの男のために選んだ時計を…)
ウィルソンを助け出そうにも場所も分からない、敵の数も…たった一人でどうにかなるのかも不明だ。早くこの任務を終わらせて情報を集めなければならないというのに、連中はやってこない。
ギリ、と歯ぎしりをした頃、ようやく王打会の連中が到着したようだ。複数人の足音と、カラカラと何か台車のような物の音が聞こえる。
ノエルとケイシーは、フラフラと足元の覚束ぬサロメ・バーンを無理やり立たせ互いに目配せをする。銃撃戦になった時の弾除けの位置を確認して、武器防具も万全だ。
「ぎゃはは、まじウケる〜、ほんとに二人で来てやんの」とこれまた頭の悪そうな青年を筆頭に連中は五人でやって来た。台車に乗せられているのは映像で暴行されていたミランダ・モスカその人……だろう。あまりに酷い有様で、本人かどうか分からない。
潰れた両目、爛れた両手両足には無数の蛆が湧いている。生きているのかも怪しい彼女にケイシーの額には青筋が浮かび上がった。
「もぉ〜、…遅いよー、あたし殴られたんだから」と鼻にかかった声でサロメ・バーンはそう言った。メンバーの男に媚びを売っているのか気持ち悪く体をくねらせる。
「…もう一発ぶん殴っときゃ良かった」と呟いたケイシーと初めて意見が合う。
長引けば長引くほどミランダの命は削られていく、二人は怒りを堪えて冷静に対応する。
「さっさと交換しよう」
ノエルが一歩踏み出すと、男は甲高い声で「勝手に動くな!」と喚き散らし拳銃をこちらに向ける。それに反応し直ぐにケイシーも拳銃を構えた。
「まずサロメをこっちに渡せ。…んで俺が台車を押すからよ」
サロメ・バーンの背中をドンとノエルは押して向こうに返す。青年は人が乗せられていることなど構わず、その台車を足で乱暴に蹴ってこちらにミランダ・モスカを返した。
「ゔッ…」と彼女は微かに呻き、瓦礫の上に転がった。ただでさえ重症なのに、血も涙もない連中だ。ケイシーは下手に動かすことはせず、彼女に「もう大丈夫だからな」と優しい言葉をかけている。
「んじゃ、俺らは帰るからよ〜。俺らが帰ったらあんたらも帰んな〜」
彼らがその場から離れ、次第に足音が遠くなる。本当にサロメ・バーンと交換するだけで良かったのだろう、あの少女が重要な人物には思えないが特に他の要求もしないようだ。
ケイシーは突っ立っているだけのノエルとは違い、即座に救護班に連絡を入れて彼女の意識レベルを確認している。
「―おい!グズ!ボーッとしてねぇで手伝え!」
その怒鳴り声にノエルはハッと我に返り、彼の元へ駆け寄った。ケイシーが名前を問いかけると、彼女は掠れた声で「ミランダ…」と答える。意識はあるようでとりあえず安心だ。
それから五分ほどしてやって来た救護班の担架に乗せられ彼女は無事とは言い難いが近くの病院へ運ばれて行った。
「ぼさっとすんな。ただでさえデケェ大木なんだからさっさと歩け。十六時までには報告せにゃならんのよ」
微かに残った腐臭と肉から離れた蛆が瓦礫の上を泳ぐ。それをノエルは高い靴で踏み潰した。
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