48 / 51

第48話

 王国打倒委員会に誰しも望んで加入している訳では無い。例えば友人に誘われてそのままおかしな思想に染まることもあるだろうし、彼のように生き残るために加入せざるを得なかった人間もいる。   「おい、なんで五本しかねぇーんだよ!今日はパーティーするっつったろが!」 「あーあー、こいつに任せるからだ。せっかくサロメが帰ってくるってのに…」    肩をガン!と殴られ青年は簡単に尻もちを着く。小柄で痩せた体にその衝撃は耐えられない。   「…お店の人に売って貰えなかったんだ…」 「馬鹿か、それなら盗ってこいよ」    ここに来れば温かいご飯や寝床が手に入る、そう思っていたが、実際はただの使いっ走りだ。良いことと言えば自分専用の外付けデータベースを貰えたことだろう。眼鏡型なので連中にオタク扱いされるが世界が一変して、様々な情報に触れ合える。     「レア、どうするよ?グズが酒買ってこなかったけど」 「ほんとオタク君使えないよね。ブスで気が利かないとかどうするの?」 「ぎゃはは!もっとオブラートに包んでやれよ〜」   青年は自分の人格だけでなく容姿を侮辱され、黙って俯いた。確かに美しいものでは無い、普通より劣っている、それは自覚している。   (どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!後で掲示板に書き込んでやる!)と彼らに対して日々不信感が募り、青年は熱くなる目頭から涙が零れぬようぐっと堪えた。   「そうだ、オタク君にはアレをやらせたらいい」    世間一般では美人とされる部類に入るであろう女の提案に他のメンバーはニヤニヤしながら互いに目配せしているのだ。   「ああ、悪魔の餌やりな。」 「……悪魔の餌やり?」 「そーそー。聖女様が餌やれってうるせーんだ。」    悪魔、という言葉に青年は怯えたように体を強ばらせる。それを見て彼らは馬鹿にしたように笑った。   「説明書はれーぞーこに貼ってあるから適当に見ろ。あ、鍵やっとくわ」と投げ渡されたカードキーをどうにかキャッチして、青年は彼らから逃げるようにキッチンへ向かった。     「大丈夫かよ、…あいつ殺されちまうんじゃ…」 「大丈夫だって!所詮悪魔って言っても死なねーだけだろ?それに役職持ちの連中が言うには大人しかったって言ってたし、明後日には聖女様が連れていくらしいから」 「…まぁ約束事さえ守れば大丈夫だよな」        油がこびり付いた冷蔵庫には、注意事項が書かれた紙が貼ってあった。   一、防護服の着用 二、食事は一日に朝九時と晩十八時の二回与えること 三、扉は決して開けないこと 四、悪魔を見たり話したりしてはいけない 五、鍵は責任者のみ扱うこと   「……くそ、俺をいいように扱いやがって」    青年は普段立ち入ることのない地下室にゴクリと唾を飲み込んだ。チカチカと点灯する電球はそろそろ変えたほうがいい。コンクリートの壁に貼られた『王国打倒委員会』の広報ポスターはタバコのヤニで黄ばんでいる。    今朝その悪魔がこの事務所の地下に運ばれてきたらしい。なんの目的なのかは分からないが、ろくなものでは無いだろう。  そのメガネの位置を整え、扉の前に立ち止まった。確か晩御飯は十八時と決まっている。まだ少し時間があるので彼は恐怖を紛らわせるためデータベースを開いてネットに接続した。    前回開いていたサーバーは『何でも暴露しようぜ』という掲示板のとあるスレッドのままだ。   (『某打倒○員会って本当クソしかいねぇ…』っと)    青年は壁に凭れ、熱心に書き込みをした。直ぐに返信が来るので孤独な彼には唯一の居場所だ。    >>30 某打倒○員会の会員?なんで入ったんですか?    >>33 食うもんが無くて   >>40 嘘くせ〜、俺の親戚某打倒○員会の会員だけど、データベースアクセス制限かけられてんぞ    >>43 『トツゲキ』てアプリご存知無いですか?今は情報統制なんてあってないようなものですよ    >>48 さんの言う通り俺はそのアプリで今書き込んでる。今日は悪魔の餌やり押し付けられたわ    夢中になるのは仕方がない。普段は馬鹿にされるが、顔が見えない分気を楽にして会話出来るのだ。現在このスレッドには青年を馬鹿にするような人間と、話に興味を示してくれる人間、主に二人の人物が書き込んでいる。あとは荒らしなのかおかしな絵文字を連投する奴もいるが大体スルーで済む話だ。    >>50 悪魔の餌やり?詳しく教えて欲しいです   >>50 どうせこいつホラ吹いてんだよ嘘ついて楽し〜?証拠出せないんでしょ〜?^^    >>52 なんか○禁してるっぽい?感じ。防護服着ろとか、(着てないけど)絶対に話すなとか、悪魔を見てはいけないとか書いてあったわ   >>53 嘘じゃねーよ画像上げるわ   青年は黄ばんだ王国打倒委員会のポスターを背に写真を撮ってアップロードした。もちろん自分の顔は映らないようにだが。    >>54 は?ID付きで載せろよカス    >>54 他にその悪魔の話ないんですか?悪魔の性別は?なんでそこに○禁されてるんですか?   (あ、もう十八時か…)    >>57 ペン持ってないから後でならID付きで乗せるよ  >>58 今から餌やるからその時話せそうなら話してみる    青年は『また後で書き込みに来る』と書いてデータベースを閉じる。    片手に下げた袋の中には栄養カプセルと水分などほとんど無くなっているパンが入れられている。   (とにかくご飯だけ与えればいい、ってことだよな?)    重い鉄扉、そこには横三十センチ、縦十五センチほどの鍵付きの投入口がある。彼は渡されたカードキーを通した。    すると投入口が開くようになったので、袋ごと押し込む。すると中から「誰かいるのか?」と低く、耳障りの良い声が聞こえた。どうやら悪魔は男性らしい。   「…あ!…ご、ご飯です…」   悪魔と話してはいけないという禁忌をあっという間に破ってしまった。ドキドキと心臓が嫌に暴れて、あたふたしている青年に優しい声色が再度話しかける。   「ありがとう、このカプセルのようなものはなんだろう?薬?」 「いえ、…栄養カプセルです……」    階段から誰か下ってくるのではないか、とチラチラ後ろに視線をやる。悪魔と話していることが知られたらタダでは済まされない。   「うーん、美味しくもなんともない…。水は無いのだろうか?」 「ごめんなさい、お水はまた明日持ってきますから…」 「そうか…。面倒をかけるな」    悪魔、と言う割には彼は律儀だ。もっと暴露板のネタになるような事を聞き出さなければ。   「…あ、あの…」 「ん?」 「…あなたはなんでここに?」 「それは私が聞きたい。…お前は王国打倒委員会の人間だろう?」 「あ、…はい。でもただの使いっ走りで詳しいことは知らされてないです」 「…そうか…。いつここから出られるんだろう…。寒いし暗い、…私は温もりが無いと中々寝付けない」    確かに地下はひんやりとした空気が漂っている。可哀想、だと思うのは普通の人間なら当たり前の感情だ。   「…毛布持って来れそうなら持ってきます」 「いいのか?優しいんだな。…お前名前は?」 「えっと…赤毛(ジンジャー)って皆からは言われてます。」    彼は嘘をついた。普段はオタクだのグズだの呼ばれている。今自分で付けた名前だ。赤毛だから問題は無いだろう。   「赤毛(ジンジャー)か。私は…ウィルソン。よろしくな。」 「…他に何か食べたいものとかありますか?」 「うーん、あの馬鹿みたいに甘いジュース…レモンのやつが飲みたい。糖分が足りなくてね…」 「ああ、砂糖レモンジュースかな…。持ってこられそうなら持ってきます」 「本当に?ありがとう。」 「…そろそろ戻ります。怪しまれそうなので」 「分かった。…赤毛(ジンジャー)、お前と話せてよかったよ」     そんな言葉を今まで誰が彼にかけただろう。ほんの少しだけ嬉しかったが、それは顔を合わせていないからだと直ぐに落胆する。      しっかり投入口の鍵を閉めて、地下室の階段を駆け上がった。  「不死身の男を捕まえたというのは本当かな」    小太りの男は、汗を拭うためお付の男に左手をずいっと差し出した。それはハンカチをよこせという合図だ。そのウィンナーのような手の上にハンカチが乗せられると、丁寧にテカテカの額を拭いた。    「ええ。現在とある場所に保管していますわ。」    エレモアシティーが一望できるビルの向こうにはデリカロッドの性の女神がギラギラと輝いている。こちら側は空気が澱んで薄暗いがその女は胡散臭い笑顔を崩すことはしない。   「素晴らしい。早くて明後日、役人を指定の場所へ向かわせよう。ああ、そうそう、約束の通行証だ。」 「…確かに受け取りましたわ。」    女は受け取った赤いカードを眺め、ニンマリと微笑んだ。まるで全てを手に入れた、と言わんばかりだ。   「いやはや、君達に頼んでおいて良かったよ。おかげでまたこの街から敵をごっそり排除出来そうだ」 「同じ志の者同士手を取り合うのは至極当たり前の事ですわ。」    微笑み合う二人は、固く握手を交わした。全てはこの国をより良いものへと導くためだ。            

ともだちにシェアしよう!