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第57話

『認証デキマセン』    その通告は三回目だ。天まで伸びんとする門は、白白としたライトが下から当てられ、ぼうッと浮かび上がっている。    帝都へ行くにはその門を潜らなければならない。同じ帝国籍だからといって誰でも許される訳ではなく、帝国が選別した優れた人間のみ通行が許可される仕組みだ。一般的には権力者や才能等、帝国の繁栄に貢献出来る者だと言われているが、実態は曖昧なものである。    帝国民は王国民を差別しがちだが、そんな彼らも帝都の人間からは肥溜めの田舎者だと差別される。勿論差別されていることに帝都の外の人間は気がついていないが。   「おい!早くしろよ!」   『認証デキマセン』    赤いカードには確かに『帝都通行証』と記されている。だが何度翳してもそう言われるのだ。女の後ろには長蛇の列が出来ていて、我慢の出来ない彼ら優生者は騒ぎ出すのだ。どんなに酷い言葉を後頭部に浴びようとも女は一切その笑顔を崩すことは無い。だが些細なことが機嫌を損ねることもあるだろう。   「お母様、足が痛いよぉ」    右手に繋がれた小さな男の子は長い時間立ちっぱなしだった事もありそう弱音を吐いた。だが見上げた母の鬼の形相に、その子は視線を白い床に落とす。   「あ、…えっと……」    言葉を発する前に、バシンッと響き渡る程の平手打ちが小さな頬を目掛けて飛んでくる。   「貴方は委員長なのですよ!弱音を吐くな!!」    一見大人しそうな女の豹変ぶりに、先程までウダウダ言っていた後ろの人間は一歩後ろへ下がった。   「そんな弱虫だから馬鹿にされる!リーダーとしての自覚を持つのよ!!それに何度もその呼び方を止めるよう指導したでしょう!」   「ごめんなさい…」と謝る男の子をその女は何度も何度も叩いた。教育にしては行き過ぎているが、そこにいる誰も止めに入ろうとは思わなかった。金切り声を上げて幼い息子を叩き続ける女に誰も関わりたくない。     「何してる!」    騒ぎを聞き付けた警備員は、面倒そうに顔を顰めてやって来た。長蛇の列の先頭の女が何故先に進まないのか確かめる必要が彼にはある。面倒な仕事だが、今回の原因はパッと見ただけで直ぐに分かった。       女が翳しているカードに「これはパチモンだ。」と警備員は吐き捨てるが女は納得するはずがない。   「そんなはずはありませんわ。何せ皇室親衛隊の―」 「あんた本物の通行証見たことないのか?本物はこんなちゃっちい赤色じゃなくて黒色だ。誰に騙されたか分からないが帰ってくれ」   警備員は頬が赤く腫れ上がった男の子にちらりと視線を向けるが『面倒事』として見なかった事にした。   「おら、おばさん退きな」と後ろに並んでいた男が黒色のカードを翳してその門を難なく通過していく。  長蛇の列がどんどんそこへ吸い込まれるのだ。通り過ぎる彼らはどいつもこいつも得意げな顔をしているように女には見えた。    「あの男、私に偽物の通行証を渡したのね…!…許せない…!」     女の望みの『帝都行き』は叶えられない。    強く引かれた手を振りほどくことも男の子には出来なかった。      

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