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第62話
エレモアシティー南区ゲート前、その日はやけに渋滞している。スキープカーがズラリと順番待ちをして、最後尾は既に一時間近く待たされている状況だ。苛立ちから窓を開けてゴミを投げ捨てる連中が多発し出した。
普段は監視プログラムが通行人を選別しているが今日は違う。
「あー、何だって金曜の一番忙しい時に壊れるかね」
そうボヤきたくなるのは当然だ。普段はシステム管理室でのんびりしながら監視するだけだが、システムが正常に作動しないとなれば人力で仕事しなければならない。
スキープカーの窓をコンコンと叩き、身分証の提示をお願いする。自分の身分を証明出来ない人間は残念ながらエレモアシティーの外には出られない仕組みだ。一時間近く待たされて帰れ、と言うのだからゴネるのはしょうがない。それを宥めて帰ってもらうというのが一連の流れだ。勿論エレモアシティーに入る時もその作業が必要で、そこで働く警備員はてんてこまいである。
「全く、本当ツいてないね。ポーカーの続きしたかったのによ。別に誰が通ってもいいじゃねーか」
「噂では、政府が国民のデータを収集してるらしい」
「俺が聞いた話は『帝都優生者選別』をより正確にするためと聞いたけど。」
「ははは!陰謀クセェ!…―さて、次の車を仕分けするか」
身分証明書を確認する者、スキープカー、それを跨いでゲートを開ける者、連携が必要である。
次のスキープカーがゲートの前で停車した。警備員はコンコン、と窓を開けるよう合図した。
「身分証の提示お願いしております」
その車内には小綺麗なスーツを着た感じの悪そうな男二人が乗っている。しかし綺麗なのは服装だけで、「誰に物言ってんだ?」と偉そうな態度を隠すことがない。
(誰だよ…、知らねぇよ)と内心思いながら定型文を読み上げなければ。
「ただ今監視プログラムの不具合で皆様に提示をお願いしております。」
「見てわかんねぇのか!マーク!」
中年の男は窓から手を出しスキープカーの車体をバンバン叩いた。そこには『|帝国宮内庁《ていこくくないちょう》』のカンムリワシのマークが確かにある。
「身分証明書のご提示頂けない場合、ゲート通過を許可出来ません」
「ああ!?宮内庁の人間だって言ってるだろ!」
話の通じない相手だ。そもそも宮内庁の人間がこのような横暴を働くのだろうかと疑問に思う。ゲートを制御している相方にアイコンタクトを取り、いざと言う時に備えていてもらう。
ちらりと視線を後部座席に向けると、大きな麻袋が転がされている。ちょうど人一人分位のサイズだ。
「…その後部座席の荷物は?」
「………」
先程までクダを巻いていた男が急に黙りを決め込んだ。そして逆に今まで一言も喋らなかったもう一人が「石膏像だ」と怪しすぎる回答をする。もしかすると帝国宮内庁のマークもコピーかもしれない。
「中身を確認させてください」
「それは機密事項だから…」
もそ…と後部座席の麻袋が動いた。石膏像が動くはずは無いのでこれは事件の匂いだ、そう察知した警備員は腰の警棒をスッと抜き取った。ほぼ同時に車内の男達も内ポケットのピストルを向ける。
ごくりと飲んだその時、グラグラと地面が脈打ち、聞いたこともない凄まじい破裂音が頭上から襲い掛かった。まるで水中に潜った時のようにぼんやりと音が消える。耳鳴りが段々大きく聞こえてきたら徐々に聴覚が蘇るのだ。
「な、なんだ!?」
バリバリと引き剥がされるような音の数秒後、南区ゲートの天井がべこべこに凹んでいく。おそらく落下物が飛んできたのだろう。警備員としてここにいる人間の避難を真っ先に考える。マニュアルでは駅内からの退避とあるが、頑丈に作られているこの場所より果たして外が安全なのかという疑問が頭を過った。
自称帝国宮内庁の連中との一触即発、それを留めたのは皮肉にも爆発の破片だった。
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