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隠蔽 第65話

 瓦礫が散らばり、夕陽がエレモアシティーを漂っている。空気も冷たくなってきた頃。    そのフードを指でくいっと深く被り直す。どこをどう見ても堅気ではない全身刺青だらけの男とウィルソンは親しげに話している。そして何かを受け取ると、ポケットにギュッと押し込んだ。      レミ・ゴールはその光景をデリカロッドの裏手側の細い路地で見たことがある。薬物の売人とその顧客、まさかそのやり取りをウィルソンがやっているとは信じたくない。ヒラキも同じ気持ちなのだろう、青い顔をして唇をワナワナ震わせている。     「―助かったよ。これがないと私では制御できない。」 「いいってもんよ。こんな時じゃなきゃ会う口実もねぇだろうしな。細かく砕いて必要なら吐き気止めと混ぜるといい。一瞬で効く。」     ハッキリ聞こえた会話は正しくレミの懸念していたものだ。彼女は勝手ながらウィルソンはそのようなものに手を染めないと思っていただけに少しショックを受けていた。   「にしても今回の爆発、あのコバエ集団の仕業じゃねぇか?なあビューティ、いい加減好き勝手させてていいのかよ」 「……その呼び方は止めてくれ。」 「ヤマダさんや他の連中もまだまだ現役でやれる。早いうちに終わらせねぇと、…俺らがヨボヨボになって立てなくなる」    彼らは暫く会話を続け、サイレンの劈くような叫び声が聞こえてお開きにしたようだ。「じゃあ、また後でな」と刺青の男は安全な上部駅には戻らず瓦礫の散らかる街の中へ消えていった。夕陽に黄昏る男はそれこそ絵になる。   「ウィリアム!」    怒りを隠すこと無くウィルソンの肩をガっと掴んだヒラキに、彼は目を丸くした。   「ヒラキ…それにレミまで。何してるんだ?」 「それはこっちのセリフだ!今受け取ったものを出せ!」    胸ぐらを掴み、声を荒らげるにウィルソンはしれっとした顔をして「なんの事だ?」と恍ける。しかし二人は彼がポケットに何かを隠した所を見ていた。無理やりヒラキは左のポケットに手を突っ込む。   「…ッ!これは…」    ヒラキの指先が掴んだものは小袋に詰められた青白く不気味な輝きを放つ結晶だ。   「…それってヤバイ薬じゃないの?」    ウィルソンは肩を竦めるが、レミはそのパッケージを見て直ぐに何か分かった。何の種類かは分からないが非合法のドラッグだろう。   「あんたが使うの?」 「私ではないよ」    ウィルソンはヒラキの指からそれをピッと奪い返すと「ただ貰っただけだ」と不敵な笑みを浮かべた。   「お前ふざけるなよ!そんな嘘通用するか!何考えてるんだ!」    ウィルソンの行動はどうかと思うが、それに対してヒラキが攻撃的に怒鳴り散らかすのは非常に珍しい。いつもは誰かの影でヘコヘコ頭を下げているイメージしかないが、スターシールドが崩壊した直後から様子がおかしいのだ。   「そう怒鳴るなよ。別に変なことには使わない」 「そんな訳あるか!ドラッグを持ってること自体変だろうが!」    ヒステリックに騒ぐ男を宥めるつもりなのだろう、ウィルソンはレミに目配せした。『駅に戻っていろ』と。彼女はそれに従いそそくさとその場から離れる事にした。  

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