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第70話
『パパから着信です。応答しますか?』、その執拗な連絡に彼女は機嫌を悪くする。何せお気に入りのブランドバッグは破片が飛んで破け、ヒールを履いていたせいで足を挫いたのだ。
「もう!なに!?うっざ〜!」
ヒステリックに喚き散らしても、自分の声が反響するだけで誰も慰める人間などいない。
サロメ・バーンはその日王国打倒委員会の事務所の一つである会員制のバーで酒を煽り泥酔していた。目が覚めたのは凄まじい爆音と、建物がバリバリ鳴っていたからだ。幸い地下の倉庫に逃げ込んで助かったが、入口が倒壊して出られない。全身傷だらけで気分は最悪だ。
「なんでレアもスカンクもいないわけ!?あたしを一人にして、アイツら許さない!」
仲間がいないのは自分の酒癖の悪さが原因だと彼女は頭を抱える。
「もー!…どうしたらいいのよ〜!」
一晩薄暗い倉庫に閉じ込められ、彼女は心細さを感じ始めていた。食料や水はあるが、救助がいつ来るのかも分からない。
「……」
『パパから着信です。応答しますか?』
「…はぁ〜…」
サロメは危機的状況の中まだ応答するかどうか悩んでいる。それは反抗期の娘らしい、なんともくだらない理由だ。
(…でも、ケーサツも救急も繋がんないし…)
仕方がない、彼女は諦めて応答することにした。
『サロメ!良かった、今どこにいるんだ!』
漂う加齢臭、ベタベタの頭にサロメは嫌悪感が湧く。ホテルの一室だろうか、背後には大きなベッドとお付の秘書がいる。
「…え〜っと……」
『良かった、生きていた…良かった…』
彼は安心したように涙ぐんだ。後ろの秘書は彼にハンカチをサッと差し出し、それで光った顔を拭く。
(何も泣かなくてもいいじゃん…)とサロメは戸惑い、「…パパこそ大丈夫?」とその男に問いかける。彼は頷いて、愛情深い笑顔を浮かべた。
『他に誰かいるのか?』
「んー、いないよ。あたしだけ。」
『そうか…。どこにいる?パパが助けに行くよ』
過保護、サロメが内心父親を面倒だと思う一つの要因だ。あまり邪険にするといざという時利用できないと上手く転がしていたが、今は彼の過保護に安心している。
「はあ?パパはどうせお仕事でしょ?…そのうち王国打倒委員会のみんなが助けに来てくれるもん」
『…サロメ、いい加減目を覚ましなさい。こんな事になったのは彼らのせいだ。』
何回、何十回と聞いた言葉にサロメはウンザリしていた。彼は口を開けば『彼らのような不良と一緒にいるな』と唱える。自分の友人を悪く言われていい気持ちになる人間などいないだろう。
「みんなの事悪く言わないで!」
『彼らはスターシールドを爆破したんだ、確認できるだけで沢山の犠牲者が出ているんだよ。』
「そんなのあたしに関係ない!それになんでそんな事する必要があるの!」
チクリと罪悪感が胸を刺すが、だからと言ってどうしたら良いのか彼女自身も分かっていない。
『サロメ、彼らから一つでも連絡があったかい?』
「……」
『ない、ということは利用さ…るだけ…だ…』
「パパ?」
電波の調子が悪く、そこで通信は途絶えた。静かな倉庫の中にたった一人閉じ込められている、その現実に段々恐怖が襲ってくるのだ。
サロメはメッセージに彼らの名前を探すが、誰一人として『大丈夫?』の一言すら送ってきていない。
「…確かに、連絡来てないけど…」
彼女にとって王国打倒委員会は日々の寂しさを埋められる居場所だった。同じ歳くらいの仲間と朝から晩まで一緒にいる、それは広い屋敷で孤独を育て続けるよりも楽だ。
悪い事に手を染めたのは殆ど家に帰らず仕事に明け暮れる父親に対しての当て付けだった。多少の罪悪感は酒で誤魔化せる。
王国民に大して恨みなど無かったが、お金に困っていたわけではなかったが。人に迷惑をかけることで構ってもらえる、どこまで父が自分を気にかけ愛しているのか確認したかったのだろう。
「今更戻れないよ…」
バキバキと天井が軋み、チラチラと埃や砂が降ってくる。きっとこのまま生き埋めになるのだ、彼女は自分の生き方に後悔して蹲った。
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