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第80話

  その男はモニターに夢中でこちらに全く関心がない。時々口元を不満げに結んでは、ソワソワと茶菓子を右手で握って粗末にしているのだ。   「課長、聞いていますか」 「…ああもちろん。スターシールドの件だろう。」   (聞いていたのか…)とローレンは顔を顰める。フェルトマイアーは手で潰した茶菓子を口に放り込んで次のお菓子に手を出した。   「……はい。西側から誘導爆弾を投下する無人航空機の確認ができました。型番は不明、おそらくお手製のものでしょう。」 「これで点検不備という線は無くなった。全く一体どこの連中が壊したんだろう」     死者が多数出ている人災に、彼は何も動揺することなくお茶を嗜む。彼は各部隊に的確な捜査方針を掲げているが、傍から見たら遊んでいるように誤解されがちである。できる人間は仕事が早く、余った時間を有効活用しているだけだ。    その他にも個人で支援金の援助を申し出て、惜しみなく金を弱者へ放出するのだ。彼はそうでなくとも普段から弱者救済のためにボランティアに勤しんでいる。    絵に書いたような聖人君子。    もしローレンが恵まれた環境で育ち、彼と同じ立場だった時同じように振る舞えるか。   (尊敬すべき上司ではあるけど…)   「ああ、そうそう。チャリティーオークションの件、上手くいってる?」 「…はい。会場の詳しい見取り図と詳しい計画書は作成しました。間違いがないか今一度確認お願い致します」    ローレンが作成したそれを彼のデータベースに転送する。見たのか見ていないのか、彼は「うんうん、いいんじゃないかな」と適当にオーケーを出す。   「そういえば君はウィルソン君が不死身だと信用出来た?」  「…血液検査の結果が『帝国美術館無差別殺傷事件』のソレと一致したと報告がありましたので、信じざるを得ません。監視プログラムの画像とも一致しましたし」    目の前でその男が不死身だと確かめた訳では無い。だがノエルが隠し匿っていたという事実も合わせてローレンは信じた。   (それに後々分かること)   「しかし何故彼の"条件"を易易と受け入れたのですか?」    チン、とフェルトマイアーはティーカップをスプーンで鳴らした。「失礼」と一言、静かに茶を啜る。   「ただでさえ不死身を飼うという事はリスクが大きい、それに加えて…」  「そうしないと彼は絶対協力してくれないよ。凶暴な不死身を協力させたいなら、望むことは全て与えるつもりでしないと」    ふふ、とフェルトマイアーは楽しそうに笑った。正直ローレンは初めて彼から『アーサー君は不死身の男を匿っている』と聞かされた時、なんて事をしてくれたんだと怒りに支配された。それは目をかけていた部下の将来を潰されたような気がしたからだ。   「…何故ノ…アーサーはあの男を匿ったりしたのか……」 「無い物ねだり?…あるいは似た者同士惹かれあったのかもしれないね」 「………納得できません」    あの不死身の男を目の当たりにした時、彼女は言い表せぬ気持ち悪さを覚えた。見えたのだ、その美しい姿の中身が直感的に。   「君は彼らの母親のようだ。隊員に優劣はつけても個人の感情は持ち込んではいけないよ。」 「課長こそ、…人の事は言えないと思いますがね」 「言うねえ。僕は気が強い女性は好きだよ。今度一緒にお茶でもどう?」    ヒラヒラと話の核心を躱す男にこれ以上は引き出せない。ローレンは「仕事が山積みですので。」と冷たくあしらって一礼、踵を鳴らしながら退室する。さっさと残った仕事を片付け次のフェーズへ移行しなければ、とその足音は忙しく遠ざかった。 「はてさて、爆弾投下の準備でもするかな。…どれだけ炙り出せるか」  フェルトマイアーはティーカップに残った最後の一口を残したまま自らも一仕事始めることにした。

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