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第91話
「部隊長」
目的地を設定し直したローレンにまず第一声、ノエルは「何故ウィルソンをチャリティーオークションに参加させたのですか」と責め立てる。
ノエルは出来るだけ隣の男を隠したい。彼が人目に触れれば触れるほどその身を危険に晒すことになりかねないからだ。
「私達は反対した。参加したいと言い出したのは不死身本人よ。当初の予定は貴方が一般参加者として一人で潜入し、不死身は厳重に保護する予定だった。」
「…つまり直前で計画変更になったという事ですか?」
「ええ。こちらは炙り出す為の不死身の男"役"をちゃんと用意していた。」
ウィルソンを参加させた事で配役が変わったのだ。不死身の男を不死身として売る訳にもいかないので本来ノエルがやるはずだった一般参加者"役"をウィルソンがやる事になったのだろう。
(…なぜそのワガママが罷 り通る?)
眉間に一本シワが入る。それに気がついたウィルソンは「…お前が心配だったんだ」と口にした。
「しかしどういう事かしら?不死身、お前はオークションが開演されてから一度も連絡を寄越さなかった。…ちゃんと役目は果たしたのでしょうね」
「…えっと、それなんだが…ノエルの弟に警護を付けた方がいい。」
「どういう事?…お前は不死身の男 を落札するため潜入したはずでしょう」
ウィルソンは外の空気を吸いたいのか窓を開ける。車内に新鮮な空気が循環した。
「ノエルを落札したのはあの弟だ。私も入札に参加しようと思っていたんだが、有り金全て使ってしまってね」
ははは、と彼は笑った。…ウィルソンはノエルの出番の前、他の王国民を落札するため散財していた。
「それに貰った金では到底不死身を落札なんて出来やしないと思ってね。それなら良い行いに使った方が徳を積めるだろう。」
「私たちはお前が"ポケットマネーから足りない分は出す"と言ったから許可した。」
「……そうだったか?でもちゃんと会場内の要人らは記録しておいたのだ、そもそも元の計画書には『不死身の男を落札する』なんて記載はない」
人には相性がある。ローレンとウィルソンは恐らく水と油だ。
「お前は良い行いと言ったが、関係の無い人間を危険に晒したのよ。"警護を付けろ"?お前と違って不死身では無い普通の人間にお前の尻拭いをさせるため命を張って警護しろと言うのね」
「そんな言い方は―」
ノエルは男の口を手で塞ぐ。彼らの間でどのような交渉が行われていたのか分からないが、これ以上ローレンを怒らせていい事はないと断言出来る。ノエルに出来ることは話題を逸らすことだ。
「…部隊長、我々はどこへ向かっているんですか?」
(…家には帰れないだろうな)と落胆するノエルに彼女は片眉を上げ正面に向き直った。
「そんなに家に帰りたいのね。残念だけど今日から貴方たちの住居は変わる。」
彼女は付け加えた。不自由のない良い場所だから安心して欲しいと。
「…安心ねぇ」
隣の男は鼻で笑う。風で巻き上がる煤けた髪、窓の外を見やる瞳が冷徹に光った。
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