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第101話
その男は頭が良く手先が器用だった。そしてその親友も男に負け劣らないくらい頭が良く…似た者同士仲良くなったのだ。
二人して子供の頃の夢は『ロボットになること』。その影響は当時放送されていたアニメのヒーローがロボットだったから、馬鹿げた夢だとよく笑われたが共通点は絆を深めるにはちょうど良い。
彼らの夢の形はほんの少し変化して、『人の脳みそを機械化する』というものに変わった。
「外科手術にはやっぱりリスクが伴うよなあ…」
「それに現実問題どうやって双方向のインターフェースを実現させるか…一般化はまだまだ現実的じゃない。」
「デカい情報局が必要になるな。…それにそれを管理する仕組みも必要だ」
若い二人は夢中になって開発を続けた。戦争が勃発しても、その二人は優生者だったから変わらず研究を続けられたのだろう。
形が出来上がってくると、それが実用的かどうか実験する必要があった。
『帝国立研究所が協力して欲しいって!』
だから連中の申し出は若い二人にとっては夢のようなものだった。彼らは二人の無名の研究者を快く受け入れ、惜しみない援助を送った。優秀で素晴らしい仲間ともそこで出会い、研究はどんどんと現実味を帯びていったのだ。
「今回の被験者は上手く行きそうだ。」
「…前回の被験者はどうなったんだ?」
「残念ながらダメだったようだ。全く、電極一つ幾らかかると思っているんだ。」
だがその親友はずっと心の奥で違和感を覚えていた。
連れてこられる被験者はいつも異邦人だった。男性の被験者が多かったが、時々女性もいる。ある日その親友は主任研究員に何気なく聞いたのだ。
『彼らは何故この実験に参加したんでしょう』と。どこか体が悪いのか、はたまた高額な報酬に目が眩んだのか。
『こいつらは捕虜だ。』と答えを貰ったその日から、違和感は少しずつ、被験者が増える度大きくなった。
研究は着実に進んでいる。それなのに素直に喜べなくなっていたのだ。
産まれたばかりの赤子を連れてこられた日には気が滅入った。
「こんなのやっぱりおかしい!もう止めよう!」
親友は男にそう詰め寄った。切羽詰まって、随分痩せた親友に気がつけぬほど男は目先の欲求に支配されていたのだ。
「今更何言ってんだよ。これが成功すれば一生遊んで暮らせるし、長年の夢が叶うんだぞ」
こんな子供の頭を切開しろと言うのか、そして試作品の電極を差し込んで、ロボットに近づける実験の為に死んでもらうというのか。
こんなものは望んだ夢ではない。どこにもヒーローはいないじゃないか、と。
「…沢山の犠牲のおかげでデータベースを完成させた研究者達は巨額の富を得たわけだ。…使い道も分からぬまま」
チュン・ドーはそのしわくちゃの手のひらをぼんやりと眺め、ギュッと握る。その手の内には後悔と決意があった。
「私がこの計画に参加したのは『不死身』を研究出来るから、と言うだけでは無い。…だから君には安心して欲しい」
「……」
真摯な態度は彼の本心なのだろう。しんみりとした空気の中、外から複数のバタバタとした足音が数十メートル先から聞こえてくる。
「―教授!遅れてすみません!」
バコンと開けられた扉から覗いた彼らは皆汗だくである。
「もー!あんたが変な道行くから!」
「いやいや、タイヤが元々空気抜けてたんだよ」
「うぇ〜二日酔いで気持ち悪い……」
「レポート終わってなくて…」
遅刻の言い訳を彼らは一斉に始める。落ち着きがなく騒がしい。
「彼らは…?見たところ学生のようですが…」
「ああ、『不死身の男』の研究員だ。みんなここの大学に通う生徒たちだよ。右からフランツ、カルロッタ、ヤンネ、ジェニースだ。もう一人目をつけている学生がいるんだが、何せ多忙な奴でなあ」
彼らは陽気な人々なのだろう、湿った空気がカラッと一瞬で乾いた。確かに学生ならば大学内に秘密の拠点があった方が通いやすい。
「わー!どっちが不死身の男?」と二人の周りを取り囲んでやかましさ全開だ。
「あー、…私がそうだ」と愛想笑いを浮かべてウィルソンは対応している。彼は騒がしい人間はあまり得意ではないのだろう、借りてきた猫のようだ。根掘り葉掘り質問攻めにあっている。
「身長と体重をまず測ってもいいです?」
「え?……ああ構わないが……」
「じゃあ帽子とグラサン取って!」
「…いや、取るなと言われている」
「ええー?誰にだよ」
ノエルは身体検査されているウィルソンを横目にチュン・ドーに小声で話しかけた。
「こんな事は言いたくないのですが、彼らは信用出来る人間ですか?不死身の男の事が外部に漏れれば…」
「その点は心配いらん。熱心でひたむきな素晴らしい研究員だ。自分たちが研究している事を外部に、なんて手柄を他所にやるもんだ」
にっと豪快な笑顔を見せ、彼は学生達に「今日は顔合わせだけだと言ったろう!」と釘を指した。彼らは素直に聞き入れウィルソンを解放する。勿論不服そうだったが。
「…疲れた、帰りたい」とウィルソンはくちゃくちゃになったシャツを正してぐったりしている。
「今日はこれで失礼します。」
「ああそうだな。その方が良さそうだ。バオンを呼んで送らせよう」
「いえ。その必要はありません。無人タクシーが来るようにしてあります」
「そうか。…そうそうこれを」
チュン・ドーが白衣のポケットから取り出したのは空白のネームプレートだ。
「性別や年齢、国、人種など関係の無い…我々は同胞だ。これから色々と大変だろうがよろしく頼む」
差し出された手を二人は順番に握った。
一人はその男を案じて、一人は自分の後悔を払拭するため。もう一人は永遠の中の退屈しのぎ。
その握手はそれぞれの思惑が今は合致しているという証である。
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